鹿児島地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決
鹿児島市呉服町六番六号
原告
株式会社キク薬舗
右代表者代表取締役
門田耕一
右訴訟代理人弁護士
池田
右訴訟復代理人弁護士
堂免修
鹿児島市易居町一番六号
被告
鹿児島税務署長 奥田冨雄
右指定代理人
菊川秀子
同
阿部幸夫
同
松永楠男
同
樋口健児
同
此元英雄
同
田原昭男
同
小松弘機
同
山崎省典
同
松岡博文
同
徳田実生
同
亀井勝則
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が平成元年五月三一日付けで原告に対してした昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。
2 被告が平成元年五月三一日付けで原告に対してした次の処分をいずれも取り消す。
(一) 原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額一億一六九六万〇九八四円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
(二) 原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額六八八八万五七八七円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
(三) 原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額五二三〇万五九七〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分
(四) 原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち所得金額一億六四九八万四六三四を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分及び重加算税賦課決定処分
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、医薬品等の卸売及び小売業を営む青色申告の承認を受けた法人であったところ、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年三月期」という。)の法人税につき、所得金額を一億一六九六万〇九八四円とする申告(ただし修正申告後のもの)をし、昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年三月期」という。)の法人税につき、所得金額を六八八八万五七八七円とする確定申告をし、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年三月期」という。)の法人税につき、所得金額を五二三〇万五九七〇円とする確定申告をし、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六三年三月期」という。)の法人税につき、所得金額を六三〇九万八三五七円とする確定申告をした(以下、右各事業年度を「本件各事業年度」という。)。
2 被告は、原告に対し、平成元年五月三一日付けで、次のような各処分をした(以下、(一)の処分を「本件取消処分」、(二)ないし(五)の処分をまとめて「本件各更正処分等」、各更正処分を「本件各更正処分」、各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。
(一) 昭和六〇年三月期以後の法人税の青色申告承認の取消処分
(二) 昭和六〇年三月期の法人税につき、所得金額を一億三〇三四万七七九三円、納付すべき本税額を五二五一万五二〇〇円とする更正処分及びこれに伴う重加算税一七三万四〇〇〇円の賦課決定処分
(三) 昭和六一年三月期の法人税につき、所得金額を七七八三万五七五四円、納付すべき本税額を三一七一万八五〇〇円とする更正処分及びこれに伴う重加算税一〇九万二〇〇〇円の賦課決定処分
(四) 昭和六二年三月期の法人税につき、所得金額を六〇八五万四七九七円、納付すべき本税額を二四四四万五九〇〇円とする更正処分及びこれに伴う重加算税一一〇万七〇〇〇円の賦課決定処分
(五) 昭和六三年三月期の法人税につき、所得金額を一億七二七四万六三三五円、納付すべき本税額を七一四九万〇七〇〇円とする更正処分並びにこれに伴う重加算税六七二万三五〇〇円及び過少申告加算税二八七万八〇〇〇円の各賦課決定処分
3 原告は、本件取消処分及び本件各更正処分等のうち、昭和六三年三月期の法人税については、期末棚卸商品の除外を理由とするもの(三七五〇万〇六四二円)及び雑収入の計上漏れを理由とするもの(六四三八万五六三五円)を認めるものの、その他についてはなお不服があり、被告に対し、平成元年六月一五日、本件取消処分及び本件各更正処分等の全部または一部の取消しを求めて異議申立てをしたが、被告は、同年九月一四日、これを棄却する決定をし、さらに原告は、同年一〇月一一日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は平成三年一月一一日付けで、これを棄却する裁決をした。以上の経緯は、別紙一に記載のとおりである。
4 本件取消処分及び本件各更正処分等のうち請求の趣旨1及び2記載の部分はいずれも違法であるから、原告は、被告に対し、右違法部分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の事実は認め、同4の主張は争う。
三 抗弁-本件取消処分及び本件各更正処分等の適法性
1 本件取消処分の適法性
(一) 原告は、昭和六〇年三月期において、ニッコー薬品株式会社(以下「ニッコー薬品」という。)及び株式会社トワダ薬品(以下「トワダ薬品」という。)に対する別紙二に記載の各売上を、総勘定元帳の売上勘定に計上せず、これを除外していた。
(二) 原告は、別紙三に記載の各仕入を三興薬品商会ほか二業者からの仕入として昭和六〇年三月期の総勘定元帳の仕入勘定に計上したところ、三興薬品商会ほか二業者は実在せず、当該仕入にかかる商品が原告に納入されている事実も認められないのであって、仕入先を仮装して架空仕入を計上した。原告が架空仕入をしたことは、抗弁2、(二)、(1)において主張する事実から明らかである。
(三) 原告の別紙二に記載の売上除外及び別紙三に記載の架空仕入の計上は、法人税法一二七条一項三号所定の「取引の一部の隠蔽又は仮装」に該当するから、原告に対する本件取消処分は適法である。
2 本件各更正処分の適法性
(一) 売上除外について
(1) 売上除外の存在
原告は、原告の大阪出張所(以下「大阪出張所」という。)を通じて大阪方面の取引先に商品を販売したにもかかわらず、その売上の一部を総勘定元帳の売上勘定に計上せず除外していたものであり、これは、次のイないしヌの事実により明らかである。
イ 原告は、抗弁1、(一)のとおり、昭和六〇年三月期において、ニッコー薬品及びトワダ薬品に対する別紙二に記載の各売上を、総勘定元帳の売上勘定に計上せず、これを除外していた。
ロ 被告調査官による昭和六三年一〇月二五日の税務調査の際、大阪出張所において、簿外現金四〇三万七三一〇円(以下「本件簿外現金」という。) 並びに原告の売上勘定に計上されていない原告のタジリ薬品に対する納品書控二葉及び簿外現金出納帳の一部(昭和六三年一〇月一一日から同月二四日までの分)が発見された。
企業会計、企業簿記の目的に従って適正な記帳を続ける限り、簿外現金が生じるようなことはありえず、現金出納帳の記載不備等の過失で帳簿上の現金残高と現金有高に多少の不一致が生じた場合でも、最終的には雑収入ないし雑損失として損益を計上する会計処理が行われるのであるから、簿外現金の存在する余地はないのである。
ハ 大阪出張所の平川一勇所長(以下「平川」という。)は、任意作成した事実申立書に、原告の代表取締役門田耕一(以下「門田」という。)の指示により昭和六〇年ころから月平均四〇万円ないし五〇万円の現金売上の除外を行い、これによって捻出した簿外現金を後記架空仕入の計上によって捻出した簿外現金とともに門田に手渡しあるいは送金したこと、本件簿外現金も売上除外と架空仕入によって捻出したこと等を記述している。
ニ 門田は、その作成にかかる申述書に、売上除外及び架空仕入の計上により簿外現金を捻出しこれを自己及び家族等の用に費消していたこと、簿外現金についての報告は平川から受けていたが簿外現金出納帳は確認の上破棄していたこと、本件簿外現金は売上除外及び架空仕入の計上により捻出したものであること等を記述している。
ホ 原告は、本件簿外現金につき、売上除外及び架空仕入の計上によって捻出したことを認めた上、これを昭和六三年一一月四日付けで益金に受入れ処理した。
ヘ 原告の売上先であるトワダ薬品、ニッコー薬品、井村薬品株式会社(以下「井村薬品」という。)、株式会社巴薬品商会(以下「巴薬品」という。)、サンキ薬品株式会社(以下「サンキ薬品」という。)、タジリ薬品の代表者等は、原告から三興薬品商会、山村薬品商会等の仮名または無記名で仕入れていた旨の申述をしており、丸菱薬品株式会社(以下「丸菱薬品」という。)の代表者は、アサヒ薬品株式会社の仮名で原告からの仕入を処理していた旨の申述をしている。
ト ニッコー薬品及び井村薬品の代表者が原告からの仕入分に間違いないとして提出した納品書には、原告が後記架空仕入の計上に使用した三興薬品商会または山村薬品商会のゴム印と同一印影のゴム印が押捺されている。
チ 原告は、大阪出張所の売上商品はすべて原告の本部商品課において梱包の上、久留米運送株式会社(以下「久留米運送」という。)を介して発送していたが、久留米運送作成の運賃請求書(以下「運賃請求書」という。)記載の運送梱包数(以下「運送個数」)という。)と、原告が被告調査官に提出した原告の本部商品課の発注伝票(以下「公表された発注伝票」という。)に記載された発送梱包数(以下「伝票個数」という。)との間には開差が存在した(以下、運送個数から伝票個数を減じた数を「開差個数」という。)
リ 被告調査官が調査の際に発見した別紙四の「調査の際発見された発注伝票」欄記載の五件の発注伝票(以下「調査の際発見された発注伝票」という。)は、それまでの調査において原告から提出されず秘匿されていたものであったが、これに記載されていた発送梱包数と、原告がそれまで被告調査官に提出していた別紙四の「公表された発注伝票」欄記載の同日付けの公表された発注伝票に記載された伝票個数の合計が、別紙四に記載のとおり、運送個数と一致し(開差個数が、調査の際発見された発注伝票に記載された発送梱包数と一致する。)、開差個数が売上除外にかかる個数であったことが判明した。
ヌ トワダ薬品の代表者作成の確認書及び添付の納品書等により認められるトワダ薬品に対する売上除外額と発送商品についての開差個数を比較すると、別紙五記載のとおり、売上除外額に相当する開差個数が認められた。なお、トワダ薬品への商品の発送は、原告の本社からの直送に限られているため、発送商品は年月日、個数とも特定される。
(2) 売上除外額の推計の必要性
売上除外額については、原告が売上除外にかかる売上伝票、発注伝票、納品書及び請求書等の直接証拠を破棄し、被告調査官の売上除外についての指摘についても、疑問点を解消するに足りる証拠書類の提示をしなかった上、取引先業者においても簿外仕入等にかかる納品書等の資料の保存が十分でないため、トワダ薬品に関するものを除いては、実額を把握することは不可能であり、推計によって算定する必要がある。
なお、トワダ薬品に関する売上除外額のみは、抗弁2、(一)、(1)、ヌのとおり実額で把握でき、各事業年度におけるその額は、別紙六の「トワダ薬品に対する売上除外実額」欄記載のとおりである。
(3) 売上除外額の推計の合理性
原告の行った売上除外額は、次の方法によって推計することができる。
イ 昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の伝票個数の確定
原告が本社から商品を得意先等に発送する場合には、本社の出荷担当責任者である商品課長が、発注伝票備考欄に梱包予定数を記号で表示しており、原告が大阪出張所宛に商品を発送したとき作成する発注伝票の備考欄にも、商品の梱包数の明細を示す符号が記載されていることから、その符号によって伝票個数を把握できることが判明した。そこで、発注伝票の備考欄に「一甲」と表示してあるものは一梱包とし、「A」、「B」、「C」で表示してあるものはそれぞれのアルファベットごとに一梱包として計算し、この合計個数と運賃請求書の日付、届け先ごとの運送個数と照合し、開差個数を求めていった。
なお、運賃請求書の「荷送人または荷受人」欄に記載されている荷送人の名称が原告の取引先でないものについては、伝票個数算定計算から除外している。また、薬品以外の物品の送付については、発注伝票にその旨の記載がされているから、右送付については伝票個数に含めて開差個数を計算した。粗品が薬品と別梱包になっているものについても、当該別梱包分を伝票個数に含めて開差個数を計算した。発注伝票備考欄に「同送」の表示があるものは、被告調査官において、発送業務を担当する商品課長から、「同送」の表示があるものはすべて同一梱包とするとの説明を受けており、これに基づき伝票個数の計算を行った。
ロ 昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の伝票個数の確定
昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の発注伝票の備考欄は空欄で梱包数の解明が不可能であったため、前二事業年度の発注伝票の記載内容を参考にするとともに、原告の商品課員らに一梱包とする商品数の実情を聴取した上で、薬品ごとに一ケースになる数量の一覧表を作成し、これに基づき発注伝票の備考欄に「・・・甲」、「A」、「B」、「C」の表示を記入し、前二事業年度と同じ作業を行って開差個数を計算した。
ハ 売上除外梱包個数の確定
開差個数を売上除外梱包個数と認定して集計したものが別紙六の「除外梱包個数」欄の数字となる。
ニ 商品一梱包あたりの平均売上単価
商品一梱包あたりの平均売上単価は、売上除外がいずれも大阪大阪出張所において実行されていることから、大阪出張所の公表売上金額を同出張所の総伝票個数で除して求めることができ、その額は次のとおりである。
昭和六〇年三月期
公表売上金額 五五一二万七〇一八円
伝票個数 一一六五
平均単価 四万七三一九円
昭和六一年三月期
公表売上金額 六六一九万一一一六円
伝票個数 一一九二
平均単価 五万五五二九円
昭和六二年三月期
公表売上金額 七三四一万二九二五円
伝票個数 一〇〇〇
平均単価 七万三四一二円
昭和六三年三月期
公表売上金額 五七八七万四三〇九円
伝票個数 六八〇
平均単価 八万五一〇九円
ホ 売上除外額
売上除外梱包個数に、商品一梱包あたりの平均売上単価を乗ずることによって推計した売上除外額は、別紙六の小計欄に記載のとおりであり、これに、各事業年度のトワダ薬品に対する売上除外実額を加算した金額は、別紙六の売上除外合計額欄に記載のとおりである。
以上の推計方法は、その方法自体において合理的なものである上、次のとおり結果においても合理的なものである。すなわち、別紙五に記載のトワダ薬品に対する売上除外額と発送商品の開差個数によって、昭和六〇年三月期の取引に該当する五件分の売上除外金額の合計額七三万〇九一五円を右取引に該当する開差個数の合計個数一一個で除すと平均単価は約六万六四四六円となり、被告が求めた同期の一梱包当たりの平均単価四万七三一九円を大幅に上回っている。また、被告が反面調査により原告の売上除外額を確認した中で最もその規模が大きく、かつ、被告が推計計算を行った中で最も売上除外額が多くなるニッコー薬品について、反面調査により把握した売上除外額と推計による売上除外額を比較すると、次のとおり、後者が前者の額を下回っているのである。
区分
反面調査額
推計による売上除外額
昭和六〇年三月期
約四〇〇万円
二〇三万四七一七円
昭和六一年三月期
約五〇〇万円
二九九万八五六六円
昭和六二年三月期
約四五〇万円
二二〇万二三六〇円
昭和六三年三月期
約四五〇万円
二三八万三〇五二円
(二) 架空仕入について
(1) 原告は、仕入先を仮装して架空の仕入を総勘定元帳の仕入勘定に計上していたものであり、これは、次のイないしホの事実により明らかである。
イ 原告が仕入先として総勘定元帳の仕入勘定に記載している別紙七記載の九件の仕入先は、いずれもその住所地には実在しない上、薬事法所定の大阪府知事の販売許可を受けた業者の中にも存在しない。
ロ 抗弁2、(一)、(1)、ロのとおり、被告調査官による昭和六三年一〇月二五日の税務調査の際、大阪出張所において、本件簿外現金四〇三万七三一〇円、簿外現金出納帳の一部(昭和六三年一〇月一一日から同月二四日までの分)及び門田の依頼により東京から送付された架空仕入計上予定の納品伝票が発見された。
企業会計、企業簿記の目的に従って適正な記帳を続ける限り、簿外現金が生じるようなことはありえず、現金出納帳の記載不備等の過失で帳簿上の現金残高と現金有高に多少の不一致が生じた場合でも、最終的には雑収入ないし雑損失として損益を計上する会計処理が行われるのであるから、簿外現金の存在する余地はないのである。
ハ 抗弁2、(一)、(1)、トのとおり、原告が仕入先として主張する三興薬品商会及び山村薬品商会の納品書には、原告がこれら名義で行ったニッコー薬品及び井村薬品に対する売上除外にかかる納品書に押されているものと同一印影のゴム印が押捺されており、架空仕入分の納品書を原告自ら作成していたことが明白である。
ニ 平川は、その作成にかかる事実申立書に、原告の元会長及び門田の指示により、昭和五七年ころから仮名等による架空仕入を行っており、その架空仕入先の名称は自分で考え出し、架空仕入の計上によって捻出した簿外現金は、売上除外によって捻出した簿外現金とともに門田に手渡しあるいは送金したこと、本件簿外現金も売上除外と架空仕入によって捻出したこと等を記述している。
ホ 門田は、その作成にかかる申述書に、売上除外及び架空仕入の計上により簿外現金を捻出しこれを自己及び家族等の用に費消していたこと、簿外現金についての報告は平川から受けていたが簿外現金出納帳は確認の上破棄していたこと、本件簿外現金は売上除外及び架空仕入の計上により捻出したものであること、仕入に伴って取引相手が記載し発行すべき納品書、領収書を大阪出張所で作成したことがあること等を記述している。
(2) 架空仕入の明細及びその額は、別紙七のとおりである。
(三) 本件各事業年度の所得金額
原告の本件各事業年度の所得金額は、次のとおりであって、右所得金額と同額でされた本件各更正処分は適法である。
(1) 昭和六〇年三月期の所得は、修正申告にかかる所得金額一億一六九六万〇九八四円について次の〈1〉、〈2〉の金額を加算した一億三〇三四万七七九三円である。
〈1〉 売上除外 六七八万七七四七円
〈2〉 架空仕入 六五九万八九八二円
(2) 昭和六一年三月期の所得は、確定申告にかかる所得金額六八八八万五七八七円について次の〈1〉、〈2〉の金額を加算し、〈3〉の金額を減算した七七八三万五七五四円である。
〈1〉 売上除外 一〇五一万〇四六七円
〈2〉 架空仕入 四万五九〇〇円
〈3〉 事業税認定損 一六〇万六四〇〇円
(3) 昭和六二年三月期の所得は、確定申告にかかる所得金額五二三〇万五九七〇円について次の〈1〉、〈2〉の金額を加算し、〈3〉、〈4〉の金額を減算した六〇八五万四七九七円である。
〈1〉 売上除外 八〇七万五三二〇円
〈2〉 架空仕入 一六五万五七二〇円
〈3〉 寄付限度額認容 一〇万八二一三円
〈4〉 事業税認定損 一〇七万四〇〇〇円
(4) 昭和六三年三月期の所得は、確定申告にかかる所得金額六三〇九万八三五七円について次の〈1〉ないし〈4〉の金額を加算し、〈5〉の金額を減算した一億七二七四万六三三五円である。
〈1〉 売上除外 七五七万四七〇一円
〈2〉 架空仕入 一二一万二八〇〇円
〈3〉 棚卸除外 三七五〇万〇六四二円
〈4〉 雑収入計上もれ 六四三八万五六三五円
〈5〉 事業税認定損 一〇二万五八〇〇円
3 本件各賦課決定処分の適法性
原告が行った売上除外及び架空仕入並びに本件各事業年度における所得額は前項のとおりであり、被告の行った本件各更正処分には原告の所得を過大に認定した違法はなく、過少申告加算税賦課決定は適法である。また、原告の行った売上除外及び架空仕入は、本件各事業年度の法人税の課税標準または税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいまたは仮装に該当し、原告は右隠ぺいまたは仮装したところに基づいて確定申告書及び修正申告書を被告に提出したものであるから、国税通則法六八条一項の適用による重加算税賦課決定処分は、適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一) 抗弁1、(一)の事実は認める。ただし、これらは、被告の主張するような意図的、計画的な売上除外ではなく、通常の業務の遂行の中で不可避的に生じる誤送やキャンセル分の処理に当たって、本来なら大阪出張所から原告本社に商品を返送すべきところを、返送のための運賃等がかさんだり手間がかかったりする等諸般の事情から、例外的便宜的に商品の返送をせずに大阪出張所で買手を見つけて売却処分したことがあったに過ぎず、所得隠し等の不正な目的に出たものでもなく、かつ、かかる例外的処理のなされた割合も極めて僅少なものに止まっている。
(右認否に対する被告の主張)
原告は、第三回口頭弁論期日(原告第一準備書面)において「認める」という認否をしながら、第一四回口頭弁論期日(原告第四準備書面)において右認否のように変更したのであって、これは自白の撤回に該当する。しかしながら、原告は右売上除外が存在したことは依然として争っていないし、原告は当該売上除外商品がすべて原告主張の誤送・キャンセル等の商品であったことを何ら立証していないので、原告は従前の自白が事実に反することも錯誤に基づくことも主張立証しておらず、自白の撤回は認められない。
(二) 同(二)のうち、原告が別紙三記載の各仕入を仕入勘定に計上したこと及び被告の指摘する業者が実在しないことは認め、その余は否認する。ただし、別紙三の番号2ないし5の仕入年月日は、次のものが正しい。
番号2 昭和五九年七月三一日
番号3 昭和五九年八月一・一五・二一日
番号4 昭和五九年八月二二日
番号5 昭和五九年八月三〇日
また、抗弁に対する原告の主張3、(二)に主張するとおり、原告は架空仕入は行っておらず、仕入先の都合によりこれを公表できない現金問屋からの仕入についてやむなく架空名義を用いて経理処理したに過ぎない。
(三) 同(三)は争う。
2(一)(1) 抗弁2、(一)、(1)の前文の主張は争う。
イ 同(1)、イは認める。ただし、これらは、被告の主張するような意図的、計画的な売上除外ではなく、通常の業務の遂行の中で不可避的に生じる誤送やキャンセル分の処理に当たって、本来なら大阪出張所から原告本社に商品を返送すべきところを、返送のための運賃等がかさんだり手間がかかったりする等諸般の事情から、例外的便宜的に商品の返送をせずに大阪出張所で買手を見つけて売却処分したことがあったに過ぎず、所得隠し等の不正な目的に出たものでもなく、かつ、かかる例外的処理のなされた割合も極めて僅少なものに止まっている。
ロ 同(1)、ロの第一段の事実のうち、簿外現金出納帳の存在は否認し、その余は認める。第二段の主張は争う。本件各事業年度においては、簿外現金は、商品を取引先に誤って多く発送してしまったときに、経理処理を訂正することの手間を省くため、その多過ぎた分を現金で売却処分するような場合等のごとく、正常な取引行為に付随して発生するケースが原則で、必ずしもその捻出のため悪質な行為を積極的に行っていたものではないし、簿外現金を記載した書面は、組織性、継続性をもった経理帳簿ではなく、単なるメモに過ぎない。
ハ 同(1)、ハのうち、被告主張の事実申立書が存在することは認め、その内容は否認する。右事実申立書は、違法な税務調査により作成されたもので、信用性がない。すなわち、右事実申立書の作成当時、平川は七四歳の高齢で高血圧の持病があり、降圧剤を服用しており、また足腰の痛みのため外勤ができない状態で養生しながら仕事をしており、二、三か月前からはそれが悪化して通院中であり、体調が思わしくなかった。平川は、昭和六三年一〇月二五日の調査当日、このような事情を被告調査官に申し述べたが、一向に聞き入れて貰えず、調査は午前八時四五分から午後六時すぎまで間断なく続き、調査が終了した後には、平川の血圧は最高血圧二二〇・最低血圧一一五という異常な数値を示した。このような状況の下で、平川は、激しい追及に対し一生懸命事実を述べ説明を尽くしたが、被告調査官は、「社長も認めたんだから、早く本当のことを言わんね」、「嘘を言ったら偽証罪で訴える」、「黙秘権はないんだぞ」、「言ってしまえば楽になるんだから」、「全部わかっているんだ」等と声高に威圧して、全く受け入れなかった。このため平川は、気力意欲を喪失し、身体の不調も手伝って、事実申立書に、被告調査官に言われるまま、昭和六〇年三月期以降計画的に売上除外を行っていた旨事実を曲げて書いてしまったものである。
ニ 同(1)、ニのうち、被告主張の申述書が存在することは認め、その内容は否認する。原告は、昭和六三年春ころの原告本社における在庫管理業務のコンピューター化に伴って生じたいわゆる「過剰在庫」について、門田の指示によって、本社から大阪出張所に送付された右過剰在庫商品を平川が簿外で売却処分したり、また取引実体のない架空の仕入を計上したりしたことによって、簿外現金を作り出したのであるが、被告主張の本件簿外現金は昭和六三年春ころ以降に蓄えられた全金額であって、本件各事業年度において蓄積されたものではない。門田は、被告主張のような売上除外の事実も認めていなかったのであり、被告調査官との押問答の中で、通常業務の中でのアクシデントの際に例外的な処理が便宜的にされてしまったというような事態までは否定できないと供述したに止まる。また、簿外現金の大部分は、帳簿に馴染まない類の経費に充当したものである。
ホ 同(1)、ホの事実は認める。
ヘ 同(1)、ヘの事実は知らない。被告調査官は、原告の取引先から聞取調査を行って各代表者から申述書等を徴しているが、その大半は、二、三名の従業員で門口二、三間の小さな店舗で営業している現金問屋であって、聞知したところによると、「隠すと告発する」、「協力しなければ徹底的に調べる」、「税務官ではない、国税官と呼べ」、「これこれの事を認めて申述書を書け」等と威圧的に指示したとのことであり、被告調査官の指導するとおりの申述書を書かざるを得なかったのである。なお、アサヒ薬品株式会社は原告の全く関知しない会社である上、右会社の納品書に記載された商品の中には原告の全く取り扱っていない商品が含まれている。
ト 同(1)、トのうち、被告主張の納品書に被告主張のゴム印が押捺されていることは認め、その余は否認する。
チ 同(1)、チの事実は概ね認める。
リ 同(1)、リの事実は否認する。原告は、被告の主張するような公表された発注伝票と調査の際発見された発注伝票とを区別して取り扱ったりはしておらず、後者も公表された発注伝票に該当する。
ヌ 同(1)、ヌの事実は概ね認める。その趣旨は、別紙五記載の取引年月日及び金額並びに被告の主張する方法で計算すれば、別紙五記載の伝票個数と開差個数が発生することは認めるということであって、運送個数と伝票個数の差が売上除外にかかる商品数であることは否認する趣旨である。
仮に、「概ね認める」との認否により運送個数と伝票個数の差が売上除外にかかる商品数であることについて自白が成立しているとすれば、原告は、右自白は錯誤に基づくものとして撤回し、次のとおり主張する。別紙五記載のトワダ薬品に対する売上除外にかかる納品書のうち、昭和五九年七月一三日分の商品はマイティアA・一五mg・数量二〇〇であるが、公表された発注伝票によれば、これと全く同じ商品が同一日に発送されている。原告が計画的に売上除外をするのであれば、わざわざ同一商品を二つに分けて発注伝票を作成する必要はなく、単一商品を除外する方が簡単であるし、また除外商品を一種類に限定する必要もなく数種類除外すればよいのであるから、原告本社においてそのような不自然な作業をしたとみるよりは、平川が誤送・キャンセル等で生じた商品をトワダ薬品に買い取ってもらったという可能性を考える方が自然である。そして、別紙五記載のトワダ薬品に対する売上除外にかかる納品書に記載された商品の想定される梱包数と被告の主張する開差個数との間には明らかに矛盾するものもある。
(右認否に対する被告の主張)
原告は、第三回口頭弁論期日(原告第一準備書面)において、「概ね認める」という認否をしながら、第一四回口頭弁論期日(原告第四準備書面)において、認否を右のように変更したのであって、右変更は自白の撤回に当たる。しかし原告は、当該錯誤がどのようにして生じたものかその原因を何ら明確に主張していないし、右主張は、証拠に基づく反論というより、原告の考え方の押し付けに過ぎず、およそ自白の撤回の要件を満たすものではない。
(2) 抗弁2、(一)、(2)のうち、第一段の事実は否認し、主張は争う。第二段の事実は認める。抗弁に対する原告の主張3、(一)、(1)に主張するとおり、推計の必要性は全くない。
(3) 抗弁2、(一)、(3)のうち、本件各事業年度における大阪出張所の公表売上金額は認め、その余は争う。抗弁に対する原告の主張3、(一)、(2)に主張するとおり、推計の合理性は認められない。
(二)(1) 抗弁2、(二)、(1)の前文は争う。
イ 同(1)、イの事実は認める。
ロ 同(1)、ロの第一段の事実のうち、簿外現金出納帳の存在は否認し、その余は認める。第二段の主張は争う。本件各事業年度においては、簿外現金は、商品を取引先に誤って多く発送してしまったときに、経理処理を訂正することの手間を省くため、その多過ぎた分を現金で売却処分するような場合等のごとく、正常な取引行為に付随して発生するケースが原則で、必ずしもその捻出のため悪質な行為を積極的に行っていたものではないし、簿外現金を記載した書面は、組織性、継続性をもった経理帳簿ではなく、単なるメモに過ぎない。
ハ 同(1)、ハのうち、架空仕入分の納品書を原告自ら作成していたことが明白であるとの主張は争い、その余の事実は認める。
ニ 同(1)、ニのうち、被告主張の事実申立書が存在することは認めその内容は否認する。右申立書の作成経過は、抗弁に対する認否の2、(一)、(1)、ハにおいて主張しているとおりであって、違法な税務調査により作成されたものである上、平川は、原告が行っていたのは架空名義仕入であったのに被告調査官に言われるままこれを架空仕入と表示し、事実に反する記載をしてしまったものである。
ホ 同(1)、ホのうち、被告主張の申述書が存在することは認め、その内容は否認する。原告は、昭和六三年春ころの原告本社における在庫管理業務のコンピューター化に伴って生じたいわゆる「過剰在庫」について、門田の指示によって、本社から大阪出張所に送付された右過剰在庫商品を平川が簿外で売却処分したり、また取引実体のない架空の仕入を計上したりしたことによって、本件簿外現金を作り出したのであるが、本件簿外現金は昭和六三年春ころ以降に蓄えられた全金額であって、本件各事業年度において蓄積されたものではない。門田は、被告主張のような架空仕入の事実は認めていなかった。
(2) 抗弁2、(二)、(2)の事実は否認する。
(三) 抗弁2、(三)のうち、(4)の〈3〉及び〈4〉の加算は認め、その余の各加算金額を加算すること及び各減算金額を減算することは否認し、その余は争う。
3 抗弁3は争う。
五 抗弁に対する原告の主張
1 はじめに
原告は、昭和六三年春ころ以降、原告本社における在庫管理業務のコンピューター化に伴って生じた過剰在庫について、門田の指示によって原告本社から大阪出張所に送付された過剰在庫商品を平川が簿外で売却処分したり、また取引実体のない架空の仕入を計上したりしたことによって、同年一〇月二五日の大阪出張所の税務調査により発見された本件簿外現金を作り出した。しかし、本件簿外現金は、昭和六三年春ころ以降に蓄えられた全金額であるにもかかわらず、被告は、右昭和六三年春以降の売上除外及び架空仕入と同様の行為が本件各事業年度においても行われていたものと誤認して、本件取消処分及び本件各更正処分等を行ったものである。以下詳論する。
2 本件取消処分の違法性
(一) 事実関係について
昭和六〇年三月期の架空仕入(別紙三)の事実関係についての原告の主張は、抗弁に対する原告の主張3、(二)に述べるとおりである。
(二) 取消要件の不備
青色申告制度の趣旨に照らすと、青色申告承認の取消しは安易に行ってはならず、真に青色申告書を提出するにふさわしくない法人にのみこれを適用すべきであり、帳簿が著しく不備で帳簿全体の信頼性に欠けるような場合にのみ、青色申告の承認は取り消されるべきである。
原告は、〈1〉税務署の指導に従った複式簿記の方法をとっており、〈2〉証票書類のほとんどすべてを保存しており、〈3〉二重帳簿の作成はしておらず、〈4〉申告も適法に行っているのであるから、帳簿が著しく不備であって帳簿全体の信頼性に欠ける場合には該当しない。
また、昭和六〇年三月期の売上除外、架空仕入について、被告の主張する金額をみても、売上除外額六七八万七八二七円は同期の原告の総売上高(二〇億〇九四一万八二五二円)の僅か〇・三パーセント、架空仕入額六五九万八九八二円は同期の原告の仕入総額(一五億四一五七万三八九六円)の僅か〇・四パーセントに過ぎず、このような僅少な割合の金額は修正申告や更正処分等の措置によって十分に補正できるもので、帳簿全体の信頼性を左右するものではなく、これをもって本件取消処分を行うのは裁量権の濫用である。
(三) 取消処分の安易性
被告は、本件各処分に先立って税務調査を行ったが、原被告の主張が対立する点について原告が資料を提示し調査を求めても、これに応じず、原告の説明を率直に聞こうとする姿勢もなく、結論を急ぐあまり充分な調査を行わなかった。
被告の主張する売上除外と架空仕入の認定が双方とも正しいとすれば、それはいずれも在庫高の減少につながるものであって、原告が売上除外にかかる商品をどのような経路で入手したのかが問題となるべきである。被告が在庫について何らの考及もせず、売上除外と架空仕入の双方を安易に認定したのは著しく不当である。
青色申告承認の取消しにあたっては、青色申告制度の立法趣旨を踏まえて慎重に行わなければならないが、本件は、調査対象の本件各事業年度のうちの初年度の僅かな申告金額の差異をとらえて昭和六〇年三月期につき青色申告承認の取消処分を行い、それ以降の調査対象期間について青色申告承認の取消しを武器として調査も極めて不十分なままに推計課税を行ったもので、課税処分の便法のための近道調査といっても過言ではない。
(四) 以上の諸点を考慮すれば、本件取消処分は違法である。
3 本件各更正処分等の違法性
(一) 被告の売上除外の主張について
(1) 推計課税の必要性について
推計課税は、その前提要件として、〈1〉帳簿の不存在、〈2〉帳簿内容の不正確、〈3〉調査非協力が存在し、かつ他に所得を実額で明らかにし得る方法がない場合に初めて許される。実額認定を行うための資料としては、必ずしも正規の帳簿書類にのみ限定することなく、ひろく他に収支関係を証する適切な資料または方法を加え、売上伝票、仕入伝票、領収書、請求書のような原始記録も実額認定の資料として用いるとともに、更に納税者の説明、証言、反面調査資料なども実額資料に加え、これらが存在しているときには推計課税によらないとするのが判例の示すところである。
原告は、被告が税務調査を行った際、原告の所得金額を正確に算出するため発注伝票や入庫伝票等保管していたあらゆる書類を提示し、積極的にその調査に協力方を申し出た。平成元年三月ころには、保管中の書類等を準備して、金額的に最も問題となる売上除外金の認定の基礎となる梱包数の開差について双方立ち会いの上での再調査を申し入れた。同年四月末ころには、原告代表者は税理士を同道して説明に赴いたが、準備して行った開差個数に関する資料も一顧だにされなかった。原告代表者は、被告担当者に対して再三にわたり、悪かったところは素直に改めるが、実態と余りにもかけ離れたものを認めることはどうしてもできないと申し入れて再調査を要請したが、被告担当者はこれを受け入れず、平成元年五月末日、被告は本件各更正処分を行った。
よって、被告は、推計課税の要件を満たさないままこれを行ったものであって、その結果が実額と符合するかどうか等内容の適否を論究するまでもなくそれ自体違法であるから、本件各更正処分は取消しを免れない。
(2) 推計課税の問題点
イ 被告は、開差個数によって売上除外額を推計しているが、このような推計は合理性を欠くばかりでなく、開差個数の算定自体に問題があり、到底被告の主張するような計画的かつ大規模な売上除外の事実があったとの認定はできない。
すなわち、被告の開差個数の算定方法は、運送個数から原告の保管してあった「発注伝票」の備考欄記載の記号により算出される梱包予定個数である「伝票個数」を減じて開差を求めるというものである。
しかし、運送個数算定の基礎となる発注伝票備考欄の記載は、実際に梱包する前に梱包方法の予定として記載されるものに過ぎず、発送作業を担当する原告本社商品課の現場作業員に対する梱包方法指示の不徹底や梱包作業にかけられる時間等の制約等の理由から、実際の現場作業員による梱包作業は必ずしも発注伝票備考欄記載の梱包予定通りには実行されていなかったものである。次に、細かな作業を大量に行わざるを得ないことから、単純ミスも混在している。また、原告本社からの発送荷物のなかには商品以外のもの(粗品、景品、贈答品等)が数多く含まれているにもかかわらず、被告の伝票個数算出にあたってはわずかに発注伝票に「粗品」の記載がある分のみを除外しただけでその余の分については全く考慮することなく、すべて「商品」の発送とみなしており、その結果、開差個数が増大している。さらに、伝票個数算出の際、「同送」分にかかる発注伝票備考欄の記号の使用方法につき十分な聴取調査を怠った結果、算出方法を誤っている。
ロ 以下、昭和六〇年三月期について例を挙げて検討すると、次のとおりである。
〈1〉 原告が本訴において提出した発注伝票(甲六ないし十九)によれば、被告は、昭和六〇年三月期分の開差個数の集計について、次の発注伝票備考欄記載の記号に基づく伝票個数の算出を誤っている。
昭和五九年四月一七日 ニッコー薬品 誤一二個 正一三個
同年七月一四日 万和薬品 誤三個 正四個
(ただし、ニッコー薬品宛の「一甲」を含む。)
同年九月五日 ニッコー薬品 誤二一個 正二二個
〈2〉 次に、「同送」分の記載方法を誤解したために開差個数として算出されたものが一一件ある(甲九ないし一九)。内訳は、全く開差を生じなくなるものが七件、開差が減少するものが四件である。「同送」の場合には、発注伝票備考欄記載の記号は取引先ごとに使い分けられており、取引先が異なる場合にはアルファベットは各取引先ごとに集計されなければならない。「同送」は、単に一箇所にまとめて送るだけであり、「同送」された商品の混同、紛失を防止するため、異なる取引先の分は必ず別梱包とし、その中に発注伝票を入れ、外部に「同送」分であることが判るように表示して発送していた。
〈3〉 また、発注伝票備考欄の記載が実際の梱包前の梱包予定を示すに過ぎず、現実には必ずしも記載通りの梱包が徹底されていなかったものであるが、被告主張の開差個数一三九個中、抗弁に対する原告の主張3、(一)、(2)、ロ、〈1〉記載の集計ミスを考慮した後の四〇件・一二二個のうち、アルファベット記号のうちの一部についてでも記号通りの梱包が実施されなかったとすれば開差を生じなくなるものが、件数にして三四件、個数にして七五個(運送個数を上限として実際の梱包個数の増加の可能性として考え得る個数)となる。ちなみに、このようなものの占める割合は、件数では総発送件数一四〇件の二四パーセント、個数にすれば総発送個数一一八九個のわずか六パーセント余りに過ぎず、決して不合理な数字ではない。
〈4〉 以上のような要因を考慮すれば、被告主張の昭和六〇年三月期の開差個数一三九個のうち、九二個は開差とは認められなくなる。残る四七個分についても、その中に景品や粗品(発注伝票に明記されていない分)及び取引先への贈答品が含まれており、メーカーから送付されてくる商品には景品、粗品等が商品と同梱包にされており、梱包予定の記載との間には一、二個のずれは常時発生する可能性があること、原告本社商品課から久留米運送を使って発送される取引先数が一六社であり、かつ、贈答品も各季節の産物であって、被告主張のように必ずしも中元、歳暮の時期のみに限られていた訳でもないことなどを考慮すれば、右開差の大部分が贈答品等であるとしてもなんら不合理ではない。
ハ 原告の資料によると、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期における開差個数はほぼ零である。
ニ 結局、被告主張の開差個数は、その算出の基礎となすべき資料につき、十分な調査をせず、かつ、算出に当たっての不確定要素を捨象して集計がなされ、さらには大量の細かな作業に伴う集計ミスの混在等も介在したために、単に計算上算出され得たに過ぎない空虚な数字であって、到底その数字が実体を反映したものとは言えないのである。
(二) 架空仕入について
(1) 被告は、本件各事業年度のそれぞれについて、原告が架空仕入を行っていたと主張する。しかし、原告が本件各事業年度において架空仕入を行ったことはなく、仕入そのものはあったが仕入先の都合によりこれを公表できない現金問屋との取引についてやむなく架空名義を用いて経理処理したものである。そして、原告が現に商品を仕入れていることは、大阪出張所作成の伝票、運送業者の送り状の控え、原告本社における電算入力の伝票等からも明らかである。
このような架空名義取引は、特に大阪、東京方面においては薬品問屋の商習慣となっており、原告だけが行っているものではない。すなわち、〈1〉このような現金問屋との取引は、取引される商品は金融流れ商品、過剰在庫処分品等が多く、また中には横流し商品、盗品等もあって、包装や品質に問題のあるものもあること、そのため価格は市価と比べて低廉であること、〈2〉正規の問屋との取引に際しては面倒な制約があり、小規模店舗は配達や集金の面でコストがあわず相手にしてもらえないなどの理由から、少量でも取引ができ、価格が安い(ただし小売店舗の方から出向いて仕入れる)現金取引の形態は、供給する側と商品を必要とする側の双方の欲求から戦後まもなく生じたもので、三、四〇年来続いているものであること(ただし、最近では、現金問屋の方から注文取りに来たり発送をするようになってきた。)、〈3〉不況期には通称トンビと呼ばれるブローカーによる売り込みが多いこと、〈4〉メーカーや正規問屋は、現金問屋との取引は流通体制を乱すものであるとし、現金問屋と取引する業者は資金繰りが悪化しているのではないかと警戒し、現金問屋との取引が露見した業者とは取引を停止するため、現金問屋との取引を行っている小売店舗、小規模問屋、病院等も、この取引ルートを隠匿するのが通例であることなどの実態がある。そのため、現金問屋との取引は、名義を公開しないのが慣習となっており、仕入れる側としては、やむなく架空名義の納品書を書いてもらうか、それを拒否された場合は自ら架空名義の納品書を作成するかして、現金問屋との取引をしている。平川も、正式な名称を明らかにしてくれない仕入先からの商品仕入に当たってやむなく自分の方で「架空の名称」を考えてゴム印を作成し納品書を作成していたものである。
(2) 被告の主張の中で、取引実体のない架空仕入であると主張されている三興薬品商会及び山村薬品商会名義の納品書、運賃請求書、原告本社商品課の現場職員作成の仕切伝票(大阪出張所から原告本社に送付された際、商品受入を担当する原告本社商品課の現場職員が品名、数量等を実際に入荷した商品と対照しながらチェックして作成した。)を比較すれば、被告が実体のない架空仕入であると主張する分について、大阪出張所から原告本社へ仕入商品が現実に送付されていることは明らかである。
例を挙げて説明する。原告提出の仕切伝票兼納品伝票によれば、別紙三の番号1ないし5のそれぞれについて、次の日付で原告本社商品課職員による入荷チェックがなされている。
番号1 五月一〇日受入
番号2 八月 一日受入
番号3 九月 三日受入
番号4 九月 四日受入
番号5 九月 八日受入
なお、番号3については、三枚の納品書の合計金額となることから、一括して本社へ送付されたものと推測できる。そして、右仕切伝票の受入年月日に、大阪出張所から原告本社へ運送荷物が現実に届いていることは、運賃請求書の該当年月日と比較して確認できる。運賃請求書の該当年月日欄に大阪出張所からの入荷記録がないのは、被告主張の一二件中わずか二件(三興薬品商会名義分の別紙三の番号1及び5。番号1は「フジイ薬品」に送付を委託した可能性があり、五月九日に「フジイ薬品」から大阪本社に商品が到着している。)に過ぎない。この二件については、架空名義仕入が大阪方面で頻繁に行われているブローカー相手の現金による現物取引であるとの実態のもとでは、大阪出張所以外の場所へ出向いて仕入をなすことがあり、その場合に、久留米運送を利用できないケースもままあり、あるいは大阪出張所の元払いでの送付も時々なされていたのであるから、運賃請求書に記載がないとの一事をもって商品入荷の事実自体がないと速断されるべきものではない。ちなみに山村薬品商会と佐藤薬品商会の名義分については、すべて仕切伝票の受入日に入荷の記載が存在する。また、仕切伝票に記載された受入日は、すべて納品書の仕入年月日以降の日付であり、この点でも矛盾はないばかりか、別紙三の番号6(山村薬品商会名義の昭和五九年一二月二八日仕入分。なお、この仕入年月日は一二月二六日が正しい。)と番号11(佐藤薬品商会名義の昭和五九年一二月二八日仕入分)については、双方ともに仕切伝票の受入年月日は昭和五九年一二月二七日とされており、運賃請求書の同日付の大阪出張所からの入荷分も別口で二つの記載がされているのであって、このことは、原告本社商品課作業員による入荷商品チェックが機械的になされていることを示すものである(なお、運賃請求書の同日付の荷送人欄の二つ目の記載は「キタオオサカ」となっているが、これは、「キクオオサカ」なる名称が大阪出張所を示す名称として多用されていることから、「キクオオサカ」の誤りと推測される)。
(3) 仕入代金の支払について
平川は、別紙八記載のとおり、第一勧業銀行堺筋支店発行の「株式会社キク薬舗大阪出張所」名義の普通預金及び当座預金から出金して、別紙三記載の仕入について現実に代金を支払っている。
六 原告の主張に対する被告の答弁
1 原告の主張1は争う。
2 原告の主張2(一)ないし(四)は争う。
原告は、税務署の指導に従った複式簿記の方法を採っていると主張するが、原告が複式簿記の方法を採っているのは表勘定部分に限られるのであり、売上除外、架空仕入等裏勘定に関しては複式簿記の方法を採っていないことは、原告自身本件簿外現金及び誤送、キャンセル等に基づく簿外現金の存在を認めていることからして明らかである。そもそもこのような裏帳簿を作成したこと自体既に適正な記帳を放棄したことにほかならないのであって、公表分の帳簿がその範囲で正確であるなどという主張は意味がない。
また、原告は、証拠書類はそのほとんど全てを保存していると主張するが、これも公表分のことであり、売上除外、架空仕入にかかる直接証拠である発注伝票、納品伝票等の証拠書類を廃棄してきているのである。
さらに、原告は売上除外金額及び架空仕入金額を公表売上金額及び仕入金額と対比して少額であると主張するが、公表売上金額はこれがそのまま全額原告の利益になるわけではなく、一方、売上除外金額及び架空仕入金額はその一〇〇パーセントが簿外資金を形成するのであるから、このように性質の異なる数字の比較は意味がない。
3(一) 原告の主張3(一)について
(1) 推計課税の必要性について
原告は、本件各更正処分がなされるまでの間、被告調査官の売上除外の指摘に対し、〈1〉売上除外の事実は一部認めるが、金額的には少額である、〈2〉昭和六〇年三月期の開差個数は八二個、昭和六一年三月期の開差個数は一二六個であり、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期については開差個数はほとんどないとの申立てはしていたが、被告調査官の指摘に応え疑問点を解消するに足りる証拠書類の提示をせず、ただ単に数字を示すのみであったから、原告の主張は失当である。
(2) 推計課税の問題点との主張について
イ 単純ミスについて
原告の主張する三個についてみると、これらの発注伝票には訂正がされており、被告調査官はこの訂正前の記載により発送個数を検討したものであって、かかる訂正部分のある発注伝票は被告の関知しないものである。したがって、訂正部分についてはその信憑性を疑わざるを得ない。
ロ 「同送」について
原告の主張によれば、発送する商品の梱包は必ず取引先ごとに分けて梱包出荷されることになるはずであるところ、このようにすると運賃請求書記載の運送個数を上回ることになる発注伝票があること及び運賃請求書記載の荷受人の名称も各取引先別に記載されるはずであるのに一社のみ表示されているに過ぎないものがあることからすると、原告の主張は、事実に反することが明らかである。
ハ その余の原告の主張について
原告の主張はなんら証拠に基づかず、想像に基づくものでしかないから、全く失当である。
(二) 原告の主張3(二)について
(1) 架空仕入にかかる商品は大阪出張所から本社に送付されていない
原告は、被告提出の納品書と運賃請求書及び原告提出の仕切伝票兼納品伝票の各書証を根拠として、大阪出張所からの入荷記録がないのは被告主張の一二件中わずか二件にすぎない旨主張する。
しかしながら、三興薬品商会名義の仕入(別紙三の1ないし5)についてみても、原告提出の証書に対応する着荷がなかったり、検品個数と着荷個数が不突合となったりしており、仕入の事実を証明することができていない。原告のその余の主張も同様である。結局、原告の主張は、伝票による発送個数と運賃請求書の個数欄の関連等について考慮を払わず、仕切伝票記載の検品年月日と運賃請求書の受付年月日欄の対比のみにとらわれたものであり、ただ単に着荷年月日と同じ日付の伝票があるという以上の意味はない。
(2) 他運送業者の利用について
原告は、平川が大阪出張所以外の場所に出向いて仕入をなすことがあり、その場合に久留米運送を利用できないケースもままあった旨主張するが、運送委託会社は久留米運送一社のみであり、同社からの記録により仕入の実態は判明している。
(3) 仕入代金の支払について
原告の主張は争う。原告は、仕入先に対し現実に支払がなされたことを何も立証していない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 本件取消処分の適法性
1 まず、売上除外について検討するに、抗弁1、(一)の事実は、当事者間に争いがないというべきである。すなわち、被告は、原告は第三回口頭弁論期日(原告第一準備書面)において「認める」という認否をしながら、第一四回口頭弁論期日(原告第四準備書面)において認否を変更したのであって、これは自白の撤回に該当する旨主張する。しかし、原告は、右売上除外のあった事実自体は認めた上で、右売上除外が不正な目的に出たものではなく、除外割合も極めて僅少なものに止まる等、自己に有利な事情を述べているにすぎないから、従来の売上除外に関する自白を撤回するものではなく、被告の右主張は当らない。なお、原告の右主張の当否については、二、3において説示することとする。
2 次に架空仕入について検討する。
(一) 抗弁1、(二)のうち、原告が別紙三記載の各仕入を仕入勘定に計上したこと及び被告の指摘する業者が実在しないことは当事者間に争いがない。
(二) そこで、被告が架空仕入の徴表として主張する抗弁2、(二)、(1)のイないしホの事実の存否及び抗弁に対する原告の主張3、(二)について検討する。
(1) 抗弁2、(二)、(1)のイないしホの事実のうち、次の事実は当事者間に争いがない。
原告が仕入先として総勘定元帳の仕入勘定に記載している別紙七記載の九件の仕入先は、いずれもその住所地には実在しない上、薬事法所定の大阪府知事の販売許可を受けた業者の中にも存在しないこと
被告調査官による昭和六三年一〇月二五日の税務調査の際、大阪出張所において、本件簿外現金四〇三万七三一〇円及び門田の依頼により東京から送付された架空仕入計上予定の納品伝票が発見されたこと
原告が仕入先として主張する三興薬品商会及び山村薬品商会の納品書には、原告がこれら名義で行ったニッコー薬品及び井村薬品に対する売上除外にかかる納品書に押されているものと同一印影のゴム印が押捺されていたこと
平川作成にかかる事実申立書及び門田作成にかかる申述書が存在すること
(2) 原告は、抗弁2、(二)、(1)、ロの事実のうち、簿外現金出納帳の存在を否認し、被告が簿外現金出納帳の一部であると主張する成立に争いのない乙二は、組織性、継続性をもった経理帳簿ではなく、単なるメモに過ぎないと主張する。
前掲乙二、証人平川一勇の証言(以下「平川証言」という。)及び平川証言により真正に成立したものと認められる甲二八の1ないし9によれば、乙二は、平川が原告本社に対して預金残高を報告する際に使用した大阪出張所所有の現金出納帳用紙と同一のものが使用されており、その体裁からは、一定期間ごとに残高を計算して簿外現金の記載が繰り返されていたことが認められ、右認定を左右する証拠は存しない。したがって、乙二は、報告目的で作成され、形式として連続性をもち、内容も正確な帳簿としての性格を持ったものというべきであり、単なるメモということはできないので、原告の右主張は採用できない。すなわち、乙二は、簿外現金出納帳の一部とみるのが相当である。
原告は、抗弁2、(二)、(1)、ロの第二段について、簿外現金は正常な取引行為に付随して発生するケースが原則で、必ずしもその捻出のため悪質な行為を積極的に行っていたものではない旨主張する。
しかしながら、被告が主張するように、企業会計、企業簿記の目的に従って適正な記帳を続ける限り、簿外現金の生じることはあり得ず、たとえ現金出納帳の記載不備等の過失により帳簿上の現金残高と現金有高に多少の不一致が生じた場合でも、最終的には雑収入ないし雑損失として損益を計上する会計処理が行われるのが普通であるから、簿外現金の存在する余地はないというべきであって、原告の右主張は採用の限りではない。
(3) 抗弁2、(二)、(1)、ニの事実について検討する。平川作成にかかる事実申立書(成立に争いのない乙三の1、2)には、「架空仕入については、当社の社長である門田耕一の簿外現金念出指示にもとずき私が架空の名稱を考え出し、それを使用し仕入に計上しました。その時に使用したゴム印等は私が購入し何回か使用した後焼却しました。架空仕入に使用した名稱のうち現在私が記憶しているものは下記のとおりです。」(乙三の1)、「私が昭和六三年一〇月二五日付で鹿児島税務署長宛に提出しました事実申立書は私の記憶に従い任意に提出したもので有り、その記載内容に付いては、事実に相違有りません」(乙三の2)、「私は門田耕一社長から、昭和六〇年頃から、假空の仕入の計上や帳簿に記載しない商品の売上等の指示を受け、その指示通りの行為を行っていました」(乙三の2)などと記述しているところ、原告は、抗弁に対する認否の2、(一)、(1)、ハにおいて主張しているとおり、右事実申立書は違法な税務調査により作成されたものである上、平川は、原告が行っていたのは架空名義仕入であったにもかかわらず被告調査官の言われるままこれを架空仕入と表示し、事実に反する記載をしてしまったものである旨主張し、平川証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲一の1、2は、原告の右主張に沿っている。
しかし、証人濱田吉文の証言(以下「濱田証言」という。)によれば、濱田吉文調査官(以下「濱田調査官」という。)は、平川が高齢であったため平川の体調に気を遣って調査を行ったが、平川から濱田調査官に対して具体的な身体の不調の訴えはなかったこと、濱田調査官は、調査初日に発見した、門田の依頼により東京から送付された架空仕入計上予定の納品伝票(成立に争いのない乙三八ないし四〇)、簿外現金出納帳の一部(前掲乙二)及び本件簿外現金の存在並びに平川の供述等から、原告が架空仕入をしていたと認識し、平川の認める架空仕入がいつから行われていたのか平川に質問したこと、平川は、日計表(成立に争いのない乙四一の1、2)及び自己の記憶に基づき架空仕入先を順次明らかにし、架空仕入が昭和五七、八年ころの前社長時代から行われており、門田からも昭和六〇年ころに架空仕入の指示を受けたと述べたこと、濱田調査官及び平川は、架空仕入の用語を原告が主張する架空名義による仕入とは区別して認識していたこと、当日の調査において原告の主張するがごとき被告調査官の違法な発言はなかったこと等の事実が認められる。そして、右事実経過は、前掲乙三の1、2の記載内容と整合し、乙三の1に記載された架空仕入先の名称や簿外現金捻出の規模等は平川自身が進んで述べるのでなければ濱田調査官には認識できない事柄であることからして、乙三の1、2は、平川の任意の意思に基づいて作成され、その内容が信用できることが優に認められ、右認定に反する前掲甲一の1、2、平川証言は採用できず、他に原告の右主張を裏付けるに足りる証拠はない。前示認定事実に反する平川証言は、前掲乙三の2及び濱田証言によれば、ことさらに売上除外、架空仕入を否定するためのものといわざるを得ない。
(4) 抗弁2、(二)、(1)、ホの事実について検討する。門田は、その作成にかかる申述書(成立に争いのない乙四)において、時期は判らないが、売上除外及び架空仕入の計上により簿外現金を捻出し、これを前社長である会長、門田及びその家族等の用に費消していたこと、簿外現金についての報告は平川から受けていたが簿外現金出納帳は確認の上破棄していたこと、本件簿外現金は売上除外及び架空仕入の計上により捻出したものであること等を記述しているところ、原告は、その内容を否認し、本件簿外現金は、昭和六三年春ころの原告本社における在庫管理業務のコンピューター化に伴って生じたいわゆる「過剰在庫」により作り出した簿外現金であって、昭和六三年春ころ以降に蓄えられた全金額であり、本件各事業年度において蓄積されたものではない旨主張する。
しかし、門田は、商品管理をコンピューターにより行うことの利点を、仕入担当者が発注を行い易くなると供述している(原告代表者尋問の結果)のであって、コンピューター導入後に在庫管理や発注業務に支障が生じたかのような右主張と矛盾するばかりか、門田の供述内容と意味内容が相当異なる前掲申述書を、税務調査を受けている法人の代表者である門田が、その波及する効果に思いを致すことなく安易に作成したとは到底考え難いから、前掲申述書の作成経緯に関する門田の尋問結果は到底採用できず、従って、原告の右主張も採用し難い。
そして、他に門田の申述書に記載された事項が真実に反することを窺わせる事由は認め難い。
(5) 原告は、架空名義による仕入にかかる商品が大阪出張所から本社に送付されている旨主張し(抗弁に対する原告の主張3、(二)、(2))、納品書(成立に争いのない乙二〇の1ないし7、二一の1ないし6)、運賃請求書(成立に争いのない乙一二の1ないし12、一三の1)、仕切伝票兼納品伝票(平川証言により真正に成立したものと認められる甲三の1ないし5、四の1ないし5、五の1、2)を根拠として、大阪出張所からの入荷記録がないのは、被告主張の一二件中わずか二件に過ぎないと主張するので、検討する。
成立に争いのない乙一七の1、4、5、一八の3、5、証人小山孝男の証言(以下「小山証言」という。)により真正に成立したものと認められる乙二二の別紙二及び三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙四四の4、甲二〇、小山証言によれば、フルコートFの五グラム、一〇グラム、二〇グラムの一梱包あたりの商品個数はそれぞれ順に二四〇個、一二〇個、六〇個となっており、これに基づき納品書(前掲乙二〇の3ないし7)に記載されている商品数量を除すると、別紙九に記載のとおり、納品書から発送梱包数を計算することができる。
三興薬品名義の納品書(前掲乙二〇の1ないし7)、仕切伝票兼納品伝票(前掲甲三の1ないし5。なお、送付された商品名は、前掲乙二〇の1ないし7と同一である。)、運賃請求書(前掲乙一二の1ないし6)の各記載を一覧表にしたものが別紙一〇であり、以下、同表に基づいて検討する(なお、以下の番号は、別紙一〇の番号であり、番号1は別紙三の番号1に、番号2は別紙三の番号2に、番号3ないし5は別紙三の番号3に、番号6は別紙三の番号4に、番号7は別紙三の番号5に該当する。)。
番号1は、乙二〇の1、甲三の1、乙一二の2を対比検討したものであり、商品内容が同一であるにも関わらず、原告本社着荷日である昭和五九年五月一一日以前の同月一〇日に本社検品が行われたことになってしまうが、このようなことはあり得ないので、検品に該当する着荷はなかったと考えるのが相当である。原告は、番号1は「フジイ薬品」に送付を委託した可能性があり、五月九日に「フジイ薬品」から大阪本社に商品が到着している旨主張する。前掲乙一二の1によれば、五月九日に「フジイヤクヒン」から一七個の荷物が着荷している。しかしながら、原告は、「フジイ薬品」からの納品書、仕切伝票兼納品伝票、商品受払台帳、久留米運送の荷送状等の入荷の事実を証する書証を提出しておらず、単に可能性があると指摘するに過ぎないのであって、乙二〇の1にかかる商品の仕入があったことの反証としては不十分であるというべきである。また原告は、架空名義仕入が大阪方面で頻繁に行われているブローカー相手の現金による現物取引であるとの実態のもとでは、大阪出張所以外の場所へ出向いて仕入をなすことがあり、その場合に、久留米運送を利用できないケースもままあり、あるいは大阪出張所の元払いでの送付も時々なされていたのであるから、運賃請求書に記載がないとの一事をもって商品入荷の事実自体がないと速断されるべきものではないと主張する。しかしながら、平川は、大阪出張所以外に出向いて仕入れた場合においても仕入先には久留米運送を指定して送付してもらっていたこと、送付を依頼した仕入先が誤って大阪出張所の元払いで送ったことは年に一度位であることを証言しているのであって、右証言内容は原告の右主張と矛盾するというべきである。
番号2は、乙二〇の2、甲三の2、乙一二の4を対比検討したものであり、商品はトリメートE<Q六〇P四五個のみと認められ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲一二の1によれば、これは、せいぜい一梱包であれば十分と認められるところ、着荷個数は五個となっており、仕切伝票兼納品伝票記載の個数よりも着荷個数の方が多くなる可能性が高く、これらの個数が不突合となる。
番号3ないし5は、乙二〇の3ないし5、甲三の3、乙一二の5を対比し検討したものであり、着荷個数(七梱包)より仕切伝票兼納品伝票記載の個数(二五梱包)の方が多いこととなり、これらの個数が不突合となる。
番号6は、乙二〇の6、甲三の4、乙一二の5を対比し検討したものであり、着荷個数(三梱包)より仕切伝票兼納品伝票記載の個数(一一梱包)の方が多いこととなり、これらの個数が不突合となる。
番号7は、乙二〇の7、甲三の5を対比し検討したものであるが、運賃請求書に該当するものがなく、着荷はみとめられない。原告は、番号1についてと同様の主張をするが、前示のとおり採用できない。
仮に、原告の主張するとおり、三興薬品名義の納品書に記載された商品が実在し、これが仕切伝票兼納品伝票記載の商品と同一であり、原告が右仕切伝票兼納品伝票によって検品を行っているとすれば、三興薬品名義の納品書により把握した梱包数は、運賃請求書に記載された大阪出張所からの着荷個数と一致しなければならないはずである。しかし、検討の結果は右のとおりであり、番号1及び番号5については、仕切伝票兼納品伝票に対応する着荷はなく、番号2ないし番号4については、すべて検品にかかる仕切伝票兼納品伝票記載の個数と着荷個数が不突合で、同一商品についての記載とは認めることはできない。したがって、仕切伝票兼納品伝票及び久留米運送の運賃請求書により三興薬品名義の納品書に記載された仕入の事実を証明することはできないというべきである。
次に、山村薬品商会名義の仕入である別紙三の番号6ないし10について検討する。商品個数を算定できるものについてみるに、別紙三の番号7については、前掲甲四の2、一五の1によれば、個数は一個であり、乙一二の10の一月一六日欄の「キク」の六個とは個数が不突合である。別紙三の番号10については、前掲甲四の5のフルコートF10グラムの二〇〇個は二梱包となるところ、乙一二の11の二月二〇日欄の「キク」の六個とは個数が不突合である。
次に、佐藤薬品商会名義の仕入である別紙三の番号11、12について検討する。弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲六の2、九の1、一二の3、一三の1、一四、前掲甲二〇、乙一八の3、二二の別紙一〇によれば、ユベラC90H、ユベラC180H、アリナミンA25/60T、アリナミンA25/120Tについて、一梱包あたりの商品個数はそれぞれ三〇個、一〇個、二〇〇個、一〇〇個となる。別紙三の番号11について、原告は、佐藤薬品商会を仕入先とする仕切伝票兼納品伝票(前掲甲五の1)及び運賃請求書(前掲乙一二の9)により、実際に入荷があった旨主張するが、前掲甲五の1記載の商品八品目のうち、一梱包あたりの個数の計算が可能な品目のみについて、右商品個数に基づき伝票個数を計算すると、合計一四個となり(ユベラC90Hは数量一二〇で四梱包、ユベラC180Hは数量七〇で七梱包、アリナミンA25/60Tは数量二〇〇で一梱包、アリナミンA25/120Tは数量二〇〇で二梱包)、地方、前掲乙一二の9の、原告が検品したと主張する昭和五九年一二月二七日の該当欄は、キクヤク、キタオオサカの四個または五個であるから、仕切伝票兼納品伝票記載の個数との間に大幅な個数の不突合が生ずる。
このように、原告の主張は、仕切伝票兼納品伝票記載の数量及び梱包個数と運賃請求書記載の個数欄の関連に考慮を払わず、仕切伝票兼納品伝票記載の検品年月日と運賃請求書の受付月日欄の対比にのみとらわれたものであり、仕入にかかる商品が実際に存在したことを立証するに足りない。
(6) また、原告は、別紙八記載のとおり、架空名義の仕入先に仕入代金を支払っている旨主張し(抗弁に対する原告の主張3、(二)、(3))、その証拠として、第一勧業銀行堺筋支店発行の株式会社キク薬舗大阪出張所平川一勇名義の普通預金通帳(朱線、青線、「レ」印及び「照会済○」の書込部分につき弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ、その余の部分につき成立に争いのない甲二二の1ないし8)、第一勧業銀行堺筋支店作成の株式会社キク薬舗大阪出張所名義の当座預金口座の元帳(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲二七の1、2)、大阪出張所の預金残高を記載した預金勘定(前掲甲二八の1ないし9)、平川が本社に連絡した連絡表の控え(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲二九の1ないし7)を提出している。ところで、架空仕入とは、現実には商品が動かないにもかかわらず、あたかも現実に商品が動き仕入を行ったような形態を整え、当該仕入代金を簿外で管理する行為であり、従って、公表上の会社の現金、預金等が仕入先への支払の形で流出するのは通常であり、流出した現金等が実際に仕入先に支払われるのか、仕入先が実在せず簿外現金を形成するのかによって、架空仕入であるか否かが明らかになるものである。
そこで、原告が架空名義仕入と主張する代金の支払について検討する。成立に争いのない甲三〇によれば、当座預金口座元帳の取引記号欄の番号010は、第一勧業銀行堺筋支店の窓口に小切手が持参されて現金で支払われたことを示すもの、前掲甲二二の1ないし7によれば、記号欄の「010」は現金支払を示すものであるが、原告が別紙八において指摘する前掲甲二二及び甲二七の該当取引は、すべて取引記号010の現金払いとなっており、これらの記載からは、誰に対して支払われたのか不明である。また、原告は、前掲甲二八及び二九により、架空名義仕入先に対する支払を立証しようとするが、支払伝票あるいは仕入先の領収証等の提出はないのである。従って、原告の挙げる証拠によっても、架空名義仕入の仕入代金が現実に仕入先に支払われたかはどうかは不明というほかはない。
(7) 原告は、平川は、正式な名称を明らかにしてくれない現金問屋の仕入先からの商品仕入にあたってやむなく自分の方で「架空名称」を考えてゴム印を作成し納品書を作成していた旨主張しているが、本来納品書は、取引先が作成するところに意味があるのであり、実際に仕入れがあった場合に平川が納品書を書くということは通常考えられないところであり、また、弁論の全趣旨によれば、被告が大阪出張所及び原告本社等を調査した時にも現金問屋が書いた納品書は発見されていないことが認められる。さらに、前掲甲一の1には、仕入の相手方である現金問屋について記載されているが、いずれも不明確なもので、特定し得るものではない。したがって、原告の右主張は採用できない。
(三) 以上の検討によれば、原告は昭和五七、八年ころから、架空名義仕入ではない架空仕入を行っていたと認められ、別紙三記載の各仕入は、架空名義仕入ではなく、架空仕入であったというべきであり、原告の反証は、右認定を覆すに足りないというべきである。
3 以上の事実によれば、原告は、昭和六〇年三月期において、別紙二に記載の一〇六万六九一五円の売上除外を行い、また、別紙三に記載の六五九万八九八二円の架空仕入を行ったものであって、仮装隠蔽した所得額は合計七六六万五八九七円にものぼるのであるから、原告の所為は、法人税法一二七条一項三号所定の青色申告承認取消しの要件を具備しているというべきであって、本件取消処分は適法である。
原告は、税務署の指導に従った複式簿記の方法をとっていること、証票書類のほとんどすべてを保存していること、二重帳簿の作成はしていないこと、申告も適法に行っていることを理由に、本件は、帳簿が著しく不備で帳簿全体の信頼性に欠けるような場合でないから、青色申告取消の要件に欠けると主張する。しかしながら、前示認定事実によれば、原告は、売上除外、架空仕入を行い、これによって留保した現金を簿外現金出納帳を作成して管理していたのであるから、このような裏帳簿を作成したこと自体既に適正な記帳を放棄したことにほかならない。また、原告は、前示認定事実によれば、売上除外、架空仕入にかかる直接証拠である発注伝票、納品伝票等の証拠書類を廃棄しているのであって、証票書類のほとんどすべてを保存しているといえないことは明らかである。また、過去において申告を適法に行っていたことをもって青色申告承認取消しの阻却事由とする理由は全くない。
原告は、本件売上除外は被告の主張するような意図的、計画的な売上除外ではなく、所得隠し等の不正な目的に出たものでもなく、かつ、除外割合も極めて僅少なものに止まっている、売上除外金額及び架空仕入金額を公表売上金額及び仕入金額と対比すれば少額である等と主張する。しかしながら、公表売上金額はこれがそのまま全額原告の利益になるわけではなく、一方、売上除外金額及び架空仕入金額はその全額が簿外資金を形成するのであるから、このように性質の異なる数字の比較は意味がない上、前示の仮装隠蔽した所得額合計金七六六万五八九七円は決して少額ということはできない。
よって、本件取消処分には、原告の主張するような裁量権濫用の違法も認め難く、その他原告の主張を勘案しても、本件取消処分が違法であると認めることはできない。
三 本件各更正処分の適法性
1 売上除外について
(一) 売上除外の存在について
(1) 抗弁2、(一)、(1)、イないしヌの事実のうち、次の事実は当事者間に争いがない。
原告は、抗弁1、(一)に記載のとおり、昭和六〇年三月期において、ニッコー薬品及びトワダ薬品に対する別紙二に記載の各売上を、総勘定元帳の売上勘定に計上せず、これを除外していたこと
被告調査官による昭和六三年一〇月二五日の税務調査の際、大阪出張所において、本件簿外現金及び原告の売上勘定に計上されていない原告のタジリ薬品に対する納品書控二葉が発見されたこと
平川作成にかかる事実申立書及び門田作成にかかる申述書が存在すること
原告は、本件簿外現金につき、売上除外及び架空仕入の計上によって捻出したことを認めた上、これを昭和六三年一一月四日付けで益金に受入れ処理したこと
ニッコー薬品及び井村薬品の代表者が原告からの仕入分に間違いないとして提出した納品書には、原告が使用した三興薬品商会または山村薬品商会のゴム印と同一印影のゴム印が押捺されていること
原告は、大阪出張所の売上商品はすべて原告の本部商品課において梱包の上、久留米運送を介して発送していたが、運賃請求書記載の運送個数と、原告が被告調査官に提出した公表された発注伝票に記載された伝票個数との間には開差が存在したこと(ただし、この事実は概ね争いがない。)
(2) 原告は、抗弁2、(一)、(1)、イの事実について、これらの売上除外は、被告の主張するような意図的、計画的な売上除外ではなく、通常の業務の遂行の中で不可避的に生じる誤送やキャンセル分の処理に当たって、本来なら大阪出張所から原告本社に商品を返送すべきところを、返送のための運賃等がかさんだり手間がかかったりする等諸般の事情から、例外的便宜的に商品の返送をせずに大阪出張所で買手を見つけて売却処分したことがあったに過ぎず、所得隠し等の不正な目的に出たものでもなく、かつ、かかる例外的処理のなされた割合も極めて僅少なものに止まっている旨主張する。右主張が失当であることは、三、1、(一)、10に説示するとおりである。
(3) 原告は、抗弁2、(一)、(1)、ロの事実のうち、簿外現金出納帳の存在を否認し、被告が簿外現金出納帳の一部であると主張する前掲乙二は、組織性、継続性をもった経理帳簿ではなく、単なるメモに過ぎないと主張するところ、右主張が失当であることは、二、2、(二)、(2)において説示したとおりである。
(4) 抗弁2、(一)、(1)、ハの事実について検討する。平川作成の事実申立書(前掲乙三の1、2)の記載内容のうち、架空仕入に関する部分の信用できることは、二、2、(二)、(3)において説示したとおりであるところ、平川は、前掲乙三の1、2において、売上除外については、「これも当社の社長門田耕一の簿外現金念出の指示により、本社より送られて来た商品を現金で売却したものです。売上先は三件のみで、おおむね平均すると月額四〇ないし五〇万になります。商品は、一括して送付されるのではなく、少しづつ久留米運送を使って送られます」、「架空仕入売上除外金額は、おおむね年間八〇〇万、多くて一〇〇〇万程度だと思います。」(以上前掲乙三の1)、「私は門田耕一社長から、昭和六〇年頃から、假空の仕入の計上や帳簿に記載しない商品の売上等の指示を受け、その指示通りの行為を行っていました」(前掲乙三の2)等と記載している。そして、濱田証言によれば、濱田調査官は、調査初日に発見した、原告の売上勘定に計上されていない原告のタジリ薬品に対する納品書控二葉(成立に争いがない乙一の1、2)、商品在庫表(前掲乙三の1の別紙1)、簿外現金出納帳の一部(前掲乙二)及び本件簿外現金の存在並びに平川の供述等から、原告が売上除外をしていたと認識し、平川の認める売上除外がいつから行われていたのか平川に質問したこと、平川は、これに対して、記憶に基づき、売上除外が昭和五七、八年ころの前社長時代から行われており、門田からも昭和六〇年ころに売上除外の指示を受けたことや、前掲簿外現金出納帳の一部に記載された金額を前提にすると売上除外の規模は年間八〇〇万、多くて一〇〇〇万程度である等と述べたこと等の事実が認められる。そして、右事実経過は、前掲乙三の1、2の売上除外に関する記載内容と整合し、乙三の1に記載された簿外資金捻出の規模等は平川自身が進んで述べるのでなければ濱田調査官には認識できない事柄であることからして、乙三の1、2の売上除外に関する記載内容は、平川の任意の意思に基づいて作成され、その内容が信用できることが優に認められ、右認定に反する前掲甲一の1、2、平川証言は採用できず、他に原告の右主張を裏付けるに足りる証拠はない。
(5) 抗弁2、(一)、(1)、ニの事実について検討する。門田作成の申述書(前掲乙四)の記載内容が信用できることは、二、2、(二)、(4)において説示したとおりである。
(6) 抗弁2、(一)、(1)、ヘの事実について検討する。いずれも成立に争いのない乙五の1ないし8、六の2ないし7、七の2ないし5、濱田証言及び小山証言、右各証言により真正に成立したものと認められる乙六の1、九の2ないし30、小山証言により真正に成立したものと認められる乙七の6ないし8、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙七の1、八の1及び2、九の1、一〇、一一によれば、平川の供述の裏付けを取るために被告調査官は、平川が売上除外先であるとした取引先の反面調査を行ったこと、これにより、トワダ薬品、ニッコー薬品、井村薬品、巴薬品、丸菱薬品、サンキ薬品及びタジリ薬品の各代表者等は、原告から三興薬品商会、山村薬品商会等の架空名義及び無記名(簿外)で商品を仕入れていた旨、原告の売上除外の事実を裏付ける申述をしたことが認められ、右認定を左右する証拠は存しない。
原告は、被告調査官は原告の取引先に対し威圧的に指示して被告調査官の指導するとおりの申述書を書かせた旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠は存しない。
原告は、原告が丸菱薬品に対しアサヒ薬品の名義で納品していた旨の被告の主張に対し、アサヒ薬品は原告が全く関与しない法人であり、またアサヒ薬品の納品伝票の中に原告が扱っていない商品が存在する旨主張する。しかしながら、前掲乙九の1ないし30、小山証言及び濱田証言によれば、アサヒ薬品とは、実在する法人ではなく、丸菱薬品が自社の仕入に計上する際に、原告からの仕入分を含め、仕入先の名前を公表せずに仕入れる場合にすべて便宜上アサヒ薬品名の納品書を作成し整理していたことが認められるのであって、アサヒ薬品の名称を原告が知らないことはなんら異とするに足りない。また、濱田証言によれば、丸菱薬品は、アサヒ薬品名義の取引のうち、原告の仕入れと推定できる取引につき、被告に納品書を提出したものであり、その中には、原告主張のように、原告との取引以外のものが含まれている可能性があるからといって原告との取引がないとまでは言い難いのである。
(7) 抗弁2、(一)、(1)、トの事実について検討する。原告が架空仕入の計上時に使用した三興薬品商会及び山村薬品商会名の納品書に押捺されたゴム印(前掲乙二〇の1ないし7、二一の1ないし5)とニッコー薬品及び井村薬品の代表者が原告からの仕入分に間違いないとして提出した納品書(前掲乙六の2ないし7、七の2ないし5)に押捺されたゴム印は同一印影のゴム印であることが認められ、また、トワダ薬品提出の前掲乙五の2ないし8、ニッコー薬品提出の前掲乙六の7並びに井村薬品提出の前掲乙七の3、7及び8と平川作成の前掲乙一の1及び2、二、甲二八の2ないし9を対比すると、前者の納品書の筆跡は平川の筆跡と認められる。
(8) 抗弁2、(一)、(1)、リの事実について検討する。運送個数と公表された発注伝票記載の発送梱包数(伝票個数)との間に開差が存在することは概ね当事者間に争いがないところ、前掲甲二〇、乙二二、四四の1ないし6、成立に争いのない乙一三の7、一七の1ないし5、一八の1ないし5、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙三二、小山証言、証人中野イクエの証言(一部。以下「中野証言」という。)によれば、次の事実が認められる。
イ 原告が本社から商品を得意先に発送する場合及び原告が本社から大阪出張所宛に商品を発送する場合、いずれも発注伝票が作成されるが、原告本社の出荷担当責任者である中野商品課長は、発注伝票備考欄に梱包予定数を記号で表示していたので、その符号を解明することにより伝票個数の把握が可能であった。
ロ すなわち、前掲乙二二の別紙八に示された各記号の意味に基づき、発注伝票の備考欄ごとに、「甲」は梱包数を表し(「一甲」は一梱包、「二甲」は二梱包というように梱包数を表す。)、「A」、「B」、「C」と記載してあるものは、それぞれ同一記号ごとに一梱包として計算し、伝票個数を各伝票ごとに明らかにすることができる。
ハ そこで、別紙四の番号1(昭和六〇年一〇月一一日のニッコー薬品に対する発注商品)について、公表された発注伝票である乙一八の1の伝票個数を備考欄記載の記号から算定すると、QPG、漢方便秘薬が各「一甲」の表示で計二梱包、マキロン液が「二甲」の表示で二梱包、〈△〉漢方胃腸薬が「A」の表示で一梱包、パンビタン一〇〇 一〇〇T、パンビタン一〇〇 二〇〇T及びベルミースプレーが各「B」の表示で全体で一梱包、以上合計六梱包となり、梱包個数は六個となる。
次に、前掲乙一八の1と同一日付、かつ、同一相手先である調査の際発見された発注伝票の乙一七の1の伝票個数を備考欄記載の記号から算定すると、〈△〉胃腸薬A末は「A」の表示であるから、前掲乙一八の1の△〈漢〉方胃腸薬(「A」表示)と同一梱包として、これは伝票個数に含めず、フルコートFが「一甲」の表示で一梱包、その余の三商品は「C」の表示で全部で一梱包となり、以上合計二梱包となり、梱包個数は二個となる。
そこで、同一日付、かつ、同一相手先に対する発送が記載された乙一三の7によれば、運送個数は八個であるから、乙一七及び一八の各1から算定された梱包個数の合計個数と運送個数が一致する。
ニ 以上の作業を別紙四の番号2から番号5までについて行った結果は、別紙四に記載のとおりとなり、各番号ごとに公表された発注伝票から算定される梱包個数と調査の際発見された発注伝票から算定される梱包個数の和が運送個数となる、すなわち、調査の際発見された発注伝票から算定される梱包個数は売上除外にかかるものであると推認し得る。
ホ 調査の際発見された発注伝票類似の発注伝票は、前掲乙一七の1ないし5以外には発見されていない。
ヘ 昭和六〇年一〇月当時原告が使用していた発注伝票用紙は五〇枚綴りであり、かつ、一連番号が印刷されていたところ、調査の際発見された発注伝票(前掲乙一七の1ないし5)は、発注伝票番号が〇一七二〇一から〇一七二五〇までの一綴りの伝票用紙の一部であり、公表された発注伝票(前掲乙一八の1ないし5)は、〇一四八五一から〇一四九〇〇まで、〇一四一五一から〇一四二〇〇まで、〇一四二〇一から〇一四二五〇までの三冊の発注伝票用紙の一部であるから、原告は、調査の際発見された発注伝票と公表された発注伝票とで、伝票用紙を使い分けていたと推認し得る。
ところで、原告は、被告の主張するような公表された発注伝票と調査の際発見された発注伝票とを区別して取り扱ったりはしておらず、後者も公表された発注伝票に該当する旨主張し、調査の際発見された発注伝票の使用期間に相当する昭和六〇年一〇月一一日から同月三一日の期間に原告本社で使用されていた発注伝票綴りで原告本社に保管されていた甲三二の1ないし17、三三の1ないし10、三四の1ないし8の三冊(いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)と運賃請求書(前掲乙一三の7)を照合すると、運賃請求書に記載がありながら右三冊に綴られている発注伝票中に該当する伝票のないものは、〈1〉昭和六〇年一〇月一一日-マンワヤクヒン、〈2〉同月一二日-サンキヤクヒンの二件のみであり、右二件の発送年月日からすると調査の際発見された発注伝票のうち発注伝票番号が欠番となっている〇一七二〇一及び〇一七二〇五の二件が公表発送分に該当すると推測し、これをもとに調査の際発見された発生伝票は売上除外専用伝票ではないと結論づけている。しかしながら、右〈1〉の昭和六〇年一〇月一一日-マンワヤクヒンは、乙一三の7の該当部分と甲三四の3とで運送個数が一致するから、原告の主張は明らかな誤りである。次に〈2〉についてみるに、乙一三の7の該当部分に対応する甲号証は存在しないのであるが、右〈2〉が発注伝票番号〇一七二〇一もしくは〇一七二〇五に該当するというのは推測にしか過ぎないというべきであり、別紙四における検討結果から得られる結論を左右するに足りないというべきである。
(9) 抗弁2、(一)、(1)、ヌの事実について検討する。原告は、右事実について、当初は「概ね認める」と認否していたのを、被告の主張するように、第一四回口頭弁論期日(原告第四準備書面)において、「概ね認める」との趣旨は、別紙五記載の取引年月日及び金額並びに被告の主張する方法で計算すれば、別紙五記載の伝票個数と開差個数が発生することは認めるということであって、運送個数と伝票個数の差が売上除外にかかる商品数であることは否認する趣旨であると主張するに至ったものである。しかし、右は、自白の撤回には当たらないというべきである。そもそも、「概ね認める」という認否は、いかなる事実について認め、いかなる事実について争うのか極めて曖昧な認否であるから、特定の事実について自白が成立するか否かは当該当事者の全主張を総合的に判断して決すべきものである。これを本件についてみるに、原告は、本件訴えの当初から一貫して被告の認定した開差個数については争っているのであって、「概ね認める」という認否をした原告第一準備書面の第三の一の2の(2)においても、被告主張の開差個数について争っていることが記録上明らかである。このような原告の応訴態度からすると、前示のような認否をしたことは、認否を明確にしたものに過ぎないとみるべきものであって、別紙五の伝票個数及び開差個数についてはもともと自白は成立していなかったというべきである。
そこで、さらに検討するに、別紙五記載の取引年月日及び金額並びに被告の主張する方法で計算すれば、別紙五記載の伝票個数と開差個数が発生することは当事者間に争いがなく、被告の主張する開差個数の算定方法が是認し得るものであることは三、1、(三)に説示するとおりである。
(10) 以上の事実を総合すると、原告は、本件各事業年度において、売上除外を行っていたと認めるのが相当であって、他にこれを覆すに足りる証拠は存しない。
ところで、原告は、本件各事業年度における売上除外は、被告の主張するような意図的、計画的な売上除外ではなく、通常の業務の遂行の中で不可避的に生じる誤送やキャンセル分の処理に当たって、本来なら大阪出張所から原告本社に商品を返送すべきとところを、返送のための運賃等がかさんだり手間がかかったりする等諸般の事情から、例外的便宜的に商品の返送をせずに大阪出張所で買手を見つけて売却処分したことがあったに過ぎず、所得隠し等の不正な目的に出たものでもなく、かつ、かかる例外的処理のなされた割合も極めて僅少なものに止まっている旨主張する。しかしながら、原告の右主張は、前示認定事実と適合しない上、原告は、得意先に対する納品伝票及び請求書並びに入金等の事実を検討することにより誤送・キャンセル分がいつ、どこの売上先から発生したかを明確にし得るにかかわらず、これらの立証をなんらしていないのであるから、原告の右主張は採用できないというほかはない。
(二) 売上除外額の推計の必要性について
抗弁2、(一)、(2)のうち、第二段の事実は当事者間に争いがない。そこで、第一段の事実について検討する。
所得の実額課税は、取引に関する伝票及び帳簿等が整備、保存されており、収税官吏の質問又は調査に対して納税者の正確かつ十分な応答があること等、所得の実額を明らかにするに足りる条件が備わっているときに初めて可能であり、これらの条件の欠けているときには、推計により課税することもやむを得ないところ、本件においては、次のとおり、実額課税の条件が欠けているので、推計の必要性が認められる。すなわち、前掲乙三の1、2、四、五の1ないし8、六の1ないし7、七の1ないし8、八の1及び2、一〇、一一、濱田証言、小山証言、平川証言(一部)、原告代表者尋問の結果(一部)によれば、本件各事業年度における売上除外は、平川が前社長門田清、門田耕一らの指示により実行し、右両名のみに報告していたことから、売上除外の全容を知っていたのは右三者のみであったこと、平川は、売上除外に係る納品書及び簿外現金出納帳を門田に送付し、門田はこれらを確認した後は保管せず破棄していたこと、本件の調査の過程で、売上除外にかかる売上伝票、発注伝票、納品書、請求書等の書類は、調査の際発見された発生伝票以外には発見されていないこと、したがって、原告は、これらの証拠書類を破棄し、保存していないとみられること、他方、ニッコー薬品は、原告からの仕入れを山村薬品等架空の業者からの仕入れとして扱っていたが、それらについて納品書等の証拠書類を保存していないこと、丸菱薬品は、仕入先が名を名乗らない場合及び虚偽の名義を使用する場合のすべてをアサヒ薬品からの仕入れとして扱っており、その中で原告からの仕入れを厳密に特定することができないこと、その他の原告の売上除外先についても、原告からの仕入分は、簿外仕入または架空名義の仕入とされており、納品書等の保存は不十分であり、原告からの仕入れの実額を明らかにすることができないことが認められ、右認定に反する平川証言及び原告代表者尋問の結果は採用しない。そして他にこれを覆すに足りる証拠は存しない。
原告は、被告が税務調査を行った際、原告の所得金額を正確に算出するため発注伝票や入庫伝票等保管していたあらゆる書類を提示し、積極的にその調査に協力方を申し出た等とるる主張するところ、小山証言によれば、原告は、本件各更正処分がなされるまでの間、被告調査官の売上除外の指摘に対し、〈1〉売上除外の事実は一部認めるが、金額的には少額である、〈2〉昭和六〇年三月期の開差個数は八二個、昭和六一年三月期の開差個数は一二六個であり、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期については開差個数はほとんどないとの申立てはしていたが、被告調査官の指摘に応え疑問点を解消するに足りる証拠書類の提示をせず、ただ単に数字を示すのみであったことが認められ、右認定に反する原告代表者尋問の結果は採用しない。
よって、本件においては、推計の必要性を肯定することができる。
(三) 売上除外額の推計の合理性(抗弁2、(一)、(3))について
(1) 被告は、本件各事業年度における売上除外額を推計するため、次のような方法を採用したことが認められる。
イ 昭和六〇年三月期、昭和六一年三月期の伝票個数の確定について前示のとおり、原告が大阪出張所の売上商品をすべて原告の本部商品課において梱包の上、久留米運送を介して発送していたこと及び運賃請求書記載の運送個数と原告が被告調査官に提出した公表された発注伝票に記載された伝票個数との間には開差が存在したことは、いずれも当事者間に争いがないところ、本件各事業年度の運送個数は、運賃請求書(成立に争いのない乙一二ないし一五の各1ないし12)によりすべて把握することが可能である。そして、前示認定のとおり、発注伝票備考欄に記載された梱包予定数の記号を解明することにより伝票個数の把握が可能であったから、同一日付かつ同一取引先に対する発送について、運賃請求書記載の運送個数と伝票個数を対比することにより開差個数を求めることができることになる。そして、右開差個数は、前示のとおり、売上除外にかかる個数と評価することができる。
ところで、小山証言によれば、被告は、開差個数の算定に当たっては、次のような方針を取ったことが認められる。まず、運賃請求書の「荷送人又は荷受人」欄に記載されている荷受人の名称が原告の取引先でないものは、運送個数の算定から除外した。次に、粗品等の薬品以外の物品は、発注伝票にその旨が記載されているので、伝票個数の算定に当たっては、薬品と同一梱包とされているものについては、薬品と合わせて一梱包として計算し、薬品と別梱包とされているものについては、薬品とは別梱包として、伝票個数に含めて計算した。例えば、前掲乙二二の別紙九(昭和六一年一二月一九日付け万和薬品に対する発注伝票)には、万和薬品宛の薬品「フルコートF」のほか、万和薬品、井村薬品及びタジリ薬品宛の粗品も同一梱包として送付した旨記載されているので、この場合は、全部を一梱包として計算した。前掲乙一四の9(昭和六二年一月一〇日付けの久留米運送の運賃請求書)の昭和六一年一二月一九日付けの万和薬品への運送個数は一個となっており、両者は符合する。このように、原告が保管していたすべての発注伝票から算定される伝票個数と運送個数を対比して開差個数を整理したものが、乙一六の1及び2(小山証言により真正に成立したものと認められる。)である。
ロ 昭和六二年三月期、昭和六三年三月期の伝票個数の確定について
前掲乙四四、小山証言によれば、昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期の発注伝票の備考欄は空欄で、梱包数の記載がなかったので、被告は昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の発注伝票の記載内容を参考にし、原告の商品課員らから一梱包とする商品数の実状を聴取した上で、薬品ごとに一ケースになる数量の一覧表(前掲乙四四。薬品別一c/s当り数量及び単価)を作成し、これに基いて伝票個数を把握したことが認められる。なお、開差個数の算定に当たって取った方針は、前項に記載のとおりである。昭和六二年三月期及び昭和六三年三月期につき、運送個数、伝票個数、開差個数を日付順に整理したものが、乙一六の3及び4(小山証言により真正に成立したものと認められる。)である。
ハ 売上除外梱包数の確定
前示のとおり、開差個数が売上除外梱包個数となり、前掲乙一六の1ないし4に基づき個数を集計すると、別紙六の「除外梱包個数欄」の数字となる。
ニ 商品一梱包あたりの平均売上単価
商品一梱包あたりの平均売上単価は、売上除外がいずれも大阪出張所において実行されていることから、大阪出張所の公表売上金額を同出張所の総伝票個数で除して求めることができるところ、大阪出張所の公表売上金額は当事者間に争いがなく、また、同出張所の総伝票個数は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙四二、四三によれば、被告の主張するとおりの数であると認められる。したがって、商品一個あたりの平均売上単価は、被告主張のとおり、昭和六〇年三月期は四万七三一九円、昭和六一年三月期は五万五五二九円、昭和六二年三月期は七万三四一二円、昭和六三年三月期は八万五一〇九円であることが認められる。
ホ 売上除外額
売上除外梱包個数に、商品一梱包あたりの平均売上単位を乗ずることによって推計した売上除外額は、別紙六の小計欄に記載のとおりであることが認められ、これに、各事業年度のトワダ薬品に対する売上除外実額を加算した金額は、別紙六の売上除外合計額欄に記載のとおりであることが認められる。
(2) 以上の推計方法は、原告本社からの商品の発送について裏伝票を用いて除外商品を大阪出張所あるいは取引先に発送するという原告の売上除外の方法について、除外商品を直接把握するというものであって、その把握に際しては恣意の入る余地のない合理的な方法というべきである。そして、その結果も、次に述べるとおり、相当というべきである。すなわち、前掲乙五の1ないし6によれば、昭和六〇年三月期におけるトワダ薬品に対する原告の売上除外額の合計は七三万〇九一五円であるところ、これを、前掲乙十六の1によって認められる同期のトワダ薬品に対する開差個数一一個で除すると、一個当たりの単価は約六万六四四六円となるが、前示推計により算定された同期の一梱包当たりの平均単価四万七三一九円は、これを下回っている。また、前掲乙六の1ないし7によれば、被告の反面調査によって把握された、原告からニッコー薬品に対する売上除外額は、昭和六〇年三月期に約四〇〇万円、昭和六一年三月期に約五〇〇万円、昭和六二年三月期に約四五〇万円、昭和六三年三月期に約四五〇万円であるところ、同薬品に対する推計による売上除外額は、別紙六に記載の一梱包当たりの平均単価に同表のニッコー薬品の除外梱包個数を乗じて求めた額であり、昭和六〇年三月期は二〇三万四七一七円、昭和六一年三月期は二九九万八五六六円、昭和六二年三月期は二二〇万二三六〇円、昭和六三年三月期は二三八万三〇五二円であって、これらの金額はいずれも、反面調査によって把握された売上除外額を下回っているのである。
(3) 原告は、運送個数算定の基礎となる発注伝票備考欄の記載は、実際に梱包する前に梱包方法の予定として記載されるものに過ぎず、発送作業を担当する原告本社商品課の現場作業員に対する梱包方法指示の不徹底や梱包作業にかけられる時間等の制約等の理由から、実際の現場作業員による梱包作業は必ずしも発注伝票備考欄記載の梱包予定どおりには実行されていなかった旨主張し、中野証言も、これに沿っている。しかし、前示のとおり、調査の際発見された発注伝票の備考欄記載の梱包予定数と、同一日付かつ同一取引先にかかる公表された発注伝票の備考欄記載の梱包予定数(伝票個数)の合計は、久留米運送の運賃請求書記載の運送個数に一致することが認められるのであって、原告の主張は具体的事実にそぐわない主張というべきである。
また、原告は、被告の推計は、細かな作業を大量に行わざるを得ないことから、単純ミスが混在しているとして、原告が本訴において提出した発注伝票(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲六の1及び2、七の1及び2、八の1ないし3)によれば被告は、昭和六〇年三月期分の開差個数の集計について、合計三個伝票個数の算出を誤っていると主張する。そこで、この点について検討するに、原告の指摘するものは、〈1〉昭和五九年四月一七日-ニッコー薬品、〈2〉同年七月十四日-万和薬品、〈3〉同年九月五日-ニッコー薬品である。まず〈1〉については、前掲甲六の2の欄外の仁丹一八〇〇粒二〇〇個は、備考欄に「二甲」と記載されているが、右記載には訂正がされていること、前掲乙四四の2によれば、仁丹一八〇〇粒二〇〇個は一梱包となり、これによって伝票個数を算定すると被告の主張する個数となることから、右訂正後の記載は信用性に疑問が存する。〈2〉については、前掲甲七の1のラムール四九〇T四〇個の備考欄にも訂正が施されており、「1甲」の「1」の下部には「A」の記載が窺われること、そして、ラムール四九〇T四〇個を「A」として伝票個数を算定すると、被告の主張する個数となることから、右訂正後の記載は信用性に疑問が存する。最後に〈3〉については、前掲甲八の1のキャベジン顆粒三六H五〇個が「二甲」とされているが、前掲乙四四の1によれば、キャベジン顆粒三六Hは一〇〇個で一梱包となること、したがって、キャベジン顆粒三六H五〇個が「二甲」となることは想定しにくく、せいぜい一梱包と考えられ、キャベジン顆粒三六H五〇個を一梱包として伝票個数を算定すると、被告の主張する個数となることから、右「二甲」の記載はにわかに信用できない。以上の検討によれば、原告の右主張は、いずれも採用できないといわざるを得ない。
次に、原告は、発送荷物中には商品以外の粗品、景品、贈答品等が数多く含まれているにもかかわらず、被告はその一部を除外したのみで、その余の分は考慮せず、その結果開差個数が増大した旨主張する。しかし、前記のように、贈答品等については、発注伝票に粗品の表示がされており、この表示がされたものについては、開差個数から除くよう計算がされているので、原告の右主張は失当である。
原告は、発注伝票に同送の記載がある場合には、発注伝票の記号は取引先ごとに使い分けられており、取引先が異なる場合にはアルファベットは各取引先ごとに集計されなければならないと主張し、中野証言は、右主張に沿っている。しかし、原告の右主張によると、例えば弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲一一の1(昭和五九年六月一六日付け丸三薬品宛ての発注伝票)については、「A」と「B」の二梱包、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲一一の2(同日付け光成薬品あての発注伝票、丸三薬品に同送)については、「A」と「B」の二梱包、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲一一の3(同日付け恵口薬品分、万和薬品分。丸三薬品に同送)については、各取引先ごとに二梱包で、合計六梱包となり、乙一二の3(運賃請求書)の同年六月一六日のマルサンヤクヒンあての運送個数五個を上回り、個数が適合しない。また、原告の主張するように各取引先別に梱包し発送するのであれば、運賃請求書の荷受人の記載も、各取引先別に記載されるはずであるが、前掲乙一二の3によれば、同年六月一六日の荷受人の欄にはマルサンヤクヒンの記載はあるが、恵口薬品、万和薬品の記載はない。さらに、小山証言によれば、中野は、被告調査官に対し、同送の表示のあるものはすべて一梱包とするとの説明をしたというのであり、企業としては経費節減のためできるだけ発送梱包数を減らそうとするのが通常と考えられるから、右証言は信用できるというべきである。以上の検討によれば、発注伝票に同送の記載がある場合に、取引先が異なる場合にはアルファベットは各取引先ごとに集計されなければならない旨の中野証言は採用できず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠は存しない。
原告は、被告が行った開差個数算定作業につき、単純ミスが混在し、不合理な計算方法により売上除外を認定したことは誤りである旨主張し、その例として、原告の昭和六〇年三月期のニッコー薬品に対する売上除外にかかる商品梱包数につき、平成元年一月一八日付のニッコー薬品代表取締役木嶋幸蔵の聴取書(前掲乙六の1)ではこれが約三八個と録取されており、濱田証言により真正に成立したものと認められる乙二六の2にも約三八個と記載されているにもかかわらず、被告の認定が四三個であることをあげている。しかし、乙六の1及び乙二六の2は、調査課程における作成資料であり、弁論の全趣旨によれば、本件各更正処分段階においては、調査課程における把握漏れや集計の誤りがないかを確認した上で売上除外にかかる商品数の確定を行っていることが認められ、当裁判所の集計によっても、売上除外商品数は被告主張のとおり四三個と認められる。よって、原告の主張は理由がない。
原告は、そのほか被告の開差個数の認定に対し、るる主張するが、いずれも原告の主張を認めるに足りる証拠は存しない。
2 架空仕入について
抗弁2、(二)、(1)の事実については、既に説示したとおりであって、原告が本件各事業年度において架空仕入をしていたことが認められ、抗弁2、(二)、(2)の事実については、前示認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張するとおりであることが認められ、右認定を左右する証拠は存しない。
3 本件各事業年度の所得金額
抗弁2、(三)について検討する。(4)の〈3〉及び〈4〉の加算については当事者間に争いがない。
昭和六〇年三月期には、別紙六の売上除外合計額欄記載の売上除外六七八万七七四七円、別紙七の合計欄記載の架空仕入六五九万八九八二円が認められるので、原告の所得は、修正申告にかかる所得金額一億一六九六万〇九八四円に右売上除外及び架空仕入にかかる金額を加算した一億三〇三四万七七一三円となる。右金額は、被告の主張する昭和六〇年三月期の所得金額より八〇円低額であるものの、国税通則法二八条一項により、千円未満の金額が切り捨てられる結果、税額には影響しないから、取り消す理由はない。
昭和六一年三月期には、別紙六の売上除外合計額欄記載の売上除外一〇五一万〇四六七円、別紙七の合計欄記載の架空仕入四万五九〇〇円が認められ、弁論の全趣旨により事業税認定損一六〇万六四〇〇円が認められるので、原告の所得は、確定申告にかかる所得金額六八八八万五七八七円に右売上除外及び架空仕入にかかる金額を加算し、事業税認定損の金額を減算した七七八三万五七五四円となる。
昭和六二年三月期には、別紙六の売上除外合計額欄記載の売上除外八〇七万五三二〇円、別紙七の合計欄記載の架空仕入一六五万五七二〇円が認められ、弁論の全趣旨により寄付限度額認容一〇万八二一三円、事業税認定損一〇七万四〇〇〇円が認められるので、原告の所得は、確定申告にかかる所得金額五二三〇万五九七〇円に右売上除外及び架空仕入にかかる金額を加算し、寄付限度額認容及び事業税認定損の金額を減算した六〇八五万四七九七円となる。
昭和六三年三月期については、所得の計算にあたって棚卸除外三七五〇万六四二円、雑収入計上もれ六四三八万五六三五円を加算することは当事者間に争いがなく、別紙六の売上除外合計額欄記載の売上除外七五七万四七〇一円、別紙七の合計欄記載の架空仕入一二一万二八〇〇円が認められ、弁論の全趣旨により事業税認定損一〇二万五八〇〇円が認められるので、原告の所得は、確定申告にかかる所得金額六三〇九万八三五七円に右売上除外及び架空仕入にかかる金額並びに棚卸除外及び雑収入計上もれの金額を加算し、事業税認定損の金額を減算した一億七二七四万六三三五円となる。
したがって、右所得金額と同額でされた本件各更正処分はいずれも適法である。
四 本件各賦課決定処分の適法性
被告の行った本件各更正処分はいずれも適法であるから、昭和六三年三月期についての過少申告加算税賦課決定は適法である。また、原告の行った売上除外及び架空仕入は、本件各事業年度の法人税の課税標準または税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺいまたは仮装に該当し、原告は右隠ぺいまたは仮装したところに基づいて確定申告書及び修正申告書を被告に提出したと認めるべきであるから、本件各事業年度についての国税通則法六八条一項の適用による重加算税賦課決定処分は、いずれも適法である。
五 以上のとおり、本件取消処分及び本件各更正処分等は、いずれも適法であって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中平健 裁判長裁判官小野洋一及び裁判官下野恭裕は、転補のため署名押印できない。裁判官 中平健)
別紙一 (昭和六〇年三月期)
(昭和六一年三月期)
(昭和六二年三月期)
(昭和六三年三月期)
別紙一 (昭和六〇年三月期)
(昭和六一年三月期)
(昭和六二年三月期)
(昭和六三年三月期)
別紙二 (昭和六〇年三月期ニッコー薬品、トワダ薬品売上除外分商品販売明細書)
別紙三
別紙四 公表された発注伝票及び調査の際発見された発注伝票並びに久留米運送運賃請求書の各運送梱包個数の比較検討表
別紙五 (トワダ薬品売上除外分開差表、昭和五九年五月三〇日ないし同六〇年一二月六日)
別紙六 売上除外金額の明細表
別紙七 架空仕入の明細表
別紙八 架空仕入に対する支払状況
別紙九 納品書からの発送個数計算
別紙十 架空仕入検討表